第7話 手繋ぎ散策

 風太と恵は、リクルートスーツに身を包み、恋人繋ぎをしたま新宿御苑の中を散策していく。

 園内は平日と言うこともあり、人もそこまで多くはなく、子供連れの家族やご老人が庭園の木々を鑑賞していたりと、まったりとした時間が流れている。


「あっ、見て見て風太! 綺麗な花が咲いてるよ!」


 恵は風太の手を引きながら、目をキラキラと輝かせて庭園の様子を観察している。



「そ、そうだね……」


 一方の風太は、緊張で庭園を楽しむ余裕もなく、適当に相槌を打つことしか出来なくなっていた。

 風太の意識は、恵と繋がれた手先へと向いてしまっている。


 しなやかで温かみのある恵の手。

 風太よりも一回りも小さいのに、握られる力にはパワーがみなぎっていて、恵の生命力を感じる。

 さらに柔らかくてすべすべで、風太の手とは大違いだ。


「あっ、丁度ベンチ空いたよ。ちょっと休憩しようか」


 そう言って、芝生広場のようなところにあるベンチが丁度空き、風太と恵は隣り合わせで腰掛けた。

 もちろん、手は繋いだままで……。


「落ち着くねぇー」

「そ、そうだね……」


 風太は全く気が休まっていない。

 恵と手を繋いでいるだけで、意識が完全に持っていかれてしまっているからである。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ……」


 風太の様子に気付いた恵がキョトンと首を傾げて尋ねてくる。

 流石にこの年になって、女の子と手を繋いぐのが恥ずかしいとは、恵の前では言えない。


 にぎにぎ、にぎにぎ。


 すると、恵が繋いでいた手の指に力を入れて、絡める力を強めて来た。

 風太は突然の出来事に驚いてしまい、ビクっと身体を震わせてしまう。

 それを見た恵は、くすっとおかしそうに笑った。


「もしかして、私と手繋いでるの意識しちゃってる?」


 冗談めかした様子で尋ねてくる恵に対して、風太は投げやりに言葉を返す。


「し、仕方ないだろ……。生きてきてずっと、女の子と手を繋いだことなんてなかったんだから」

「そうなの? じゃあ私が風太の初めてを貰っちゃったってわけだ」

「だ、だからそういう恥ずかしいことを口にしないでよ……!」


 刹那、恵はつないだままの手を二人の間に持ち上げたかと思うと、風太の手を自身の顔へと近づけていき、頬擦りをし始める。


「なっ……なっ⁉」


 恵の大胆行動に、風太は開いた口が塞がらず、パクパクと魚のように息を吐くことしか出来ない。


「風太の手、私の手と違ってゴツゴツしててたくましいよ。包まれてる感じがして凄く安心する」


 そう言って、今度は額に押し当ててスリスリしてくる恵。

 風太は恥ずかしすぎて顔から火が飛び出してしまいそうだった。


「恵……頼むからもうやめてくれ」

「えっ、どうして? ダメ?」

「マジでもう、心臓が止まりそうだから」

「それは困るな。しょうがない」


 恵はそこでようやく、名残惜しそうにしつつも風太の手を顔から離してくれた。

 風太はほっと息を吐く。


「でも風太と手繋いでると安心するのは本当だよ。だからしばらくこのままでいさせて……ね?」


 手を繋いだまま、上目遣いにお願いしてくる恵。

 そんな甘えたように言われてしまえば、風太はコクリと頷くことしか出来ない。


「ありがと風太!」


 嬉しそうに微笑んで、恵は先ほどよりもさらに指に力を込めて、風太と手を絡めて来る。

 恵の力強さは、もう離さないと言っているような気がして、風太はさらにどぎまぎさせられてしまうのであった。


 そして、二人のデートは急展開を迎えることとなる。

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