第6話 えっ、責任ってそういう!?
電車に乗って数十分ほど。
やってきたのは、東京の巨大ターミナルである新宿駅。
「相変わらず人多すぎだろ……」
駅構内の人通りの多さに、
「もうちょっとだから頑張って。ほら、こっちだよ」
券売機で入場料を支払い、チケットを受け取って園内へと入る。
「んーっ! 気持ちいいね」
「そ、そうだね」
「ん、どうしたの? そんなに浮かない顔して?」
「いや、どこに連れて行かれるかと思ってドギマギしてたら、まさかの新宿御苑だったから」
陽キャで快活なイメージな恵とはかけ離れたような場所に連れて来られたので、風太は少々拍子抜けしてしまったのだ。
「もしかして、もっとおしゃれな街に連れて行かれると思ってた?」
「まあね。てっきり吉祥寺とかおしゃれなお店が集まってる所に連れて行かれるのかと思ってたよ」
「良く言われる。でも実はこう見えて私、ゴミゴミしたところってあんまり好きじゃないんだよね」
「そうなの?」
「うん。だって空気もどんよりしててガヤガヤうるさいし、全然落ち着けるところがないんだもん」
「まあ確かに、東京ってどこもかしこもアスファルトって感じだもんね」
風太も初めて東京へ来た時、人工物の多さに圧倒されたのを覚えている。
地方出身者からすれば、都内中心部の木々や自然の少ないのだ。
空気も排気ガス臭くて、窮屈さに慣れるまで随分と時間が掛かったものである。
「そんな中で御苑は都内の中心地にある唯一安らげる場所なんだ。私のお気に入りスポット。意外でしょ」
「うん、正直意外かも」
「もーっ、はっきり言ってくれるなぁ。でもさ、いつもは一人でしか来なかったから、こうして風太と一緒にこれて良かったよ」
そう言う恵は、自分の秘密基地を友達に教えることが出来た嬉しさのようなものを感じているのか、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。
「適当にプラプラ歩こっか」
「うん、そうだね」
恵に言われて、早速園内を散策することにする。
がしかし、恵は立ち止まったまま歩こうとせず、なぜかじぃっと風太のことを見つめたまま動かない。
「ど、どうしたの?」
風太が尋ねると、恵はすっと目を細めた。
「こういう時はね……分かるでしょ?」
「えっ?」
ぷくっと唇を尖らせながらこちらを見つめてくる恵。
しかし、風太には恵が何を求めているのかまるで分からず、あたふたとしてしまう。
「もーっ、せっかく二人でお散歩なんだよ。仲良く歩こうってば」
そう言って、恵は自らの手を差し出してきた。
恵の頬は少々赤く染まっており、恥じらいを見せている。
「えっ⁉ て、手繋ぐの!?」
「だって、デートなんだからいいでしょ?」
「で、デート!?」
(いつからこれはデートになっていたんだ!?)
寝耳に水過ぎて、風太は唖然として口をパクパクすることしか出来ない。
「何々? 風太はもしかして、私とのデートだと思ってくれてなかったの? 言ってくれたじゃん。責任取ってくれるって」
恵が眉根を寄せて悲しそうな目を向けてくる。
「だ、だからそれは、就活の話で――」
「風太はそうかもしれないけど、私が責任取ってって言ったのはそうじゃなくて、ときめかせた責任取ってって意味なんだけど?」
「えっ……!?」
(責任ってそういうことだったの!?)
恵からの言葉を受けて、風太の胸がきゅっと縮まった。
風太は頭の中で今までの言動を思い返してみる。
(確かに、一緒に面接受けた女の子から、お茶に誘われたりするなんて非現実的なこともあるんだなとは思っていたけど……)
それが全て、風太に対しての好意だと考えたら恥ずかしさと罪悪感が沸き上がって来て、風太の心がずきりと痛む。
「ねぇ、いいでしょ?」
「わ、分かったよ……」
風太は今まで気づけなかったことも含めて観念するように恵の手と自分の手を重ね合わせた。
「違う違う。そうじゃなくて、こうでしょ?」
風太が恵の手を取り、手の握り方を変えてくる。
お互いの指と指を絡め合わせる、いわゆる恋人繋ぎに……。
「なっ……」
「ふふっ、少しは意識してくれた?」
冗談めかした様子で風太を覗き込んでくる恵。
「ば、バカ野郎……」
風太は顔に熱を帯びているのを感じつつ、ぷぃっと視線を逸らす。
視界の端で、くすくすと恵が肩を揺らして笑っているのが見えて、風太は口を閉じてぐっと恥ずかしさを堪えることしか出来ないのであった。
こうして始まった、御苑デートだが――
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