第2話 やってしまった……

「あのっ……! 話を遮ってすみません」

「……なんだね?」


 風太が声を上げると、常務は途中で話を遮られたことが不服だったらしく、剣幕な表情を向けてくる。


「その質問、セクハラですよ……」


 風太は常務の剣幕に怯えつつも、小声ながらはっきり言い切ると、常務はさらに眉間に深い皺を作った。


「なんだね? 君は私に対して何か不満があるというのかね?」


 その常務の、まるで自分が偉いんだから何でもしていいんだという横暴な態度に対して、風太の堪忍袋の緒がついに切れる。


「えぇ、少なくとも、あなたみたいなセクハラをする方がいらっしゃる会社で働きたいとは思いません」


 気づけば、年上の偉い立場の人に向かって、風太は皮肉交じりな笑顔を浮かべながらとんでもないことを言い放っていた。

 すぐさま後悔の念に苛まれてしまい、風太は身を縮こまらせてしまう。

 風太の言葉を受けて、常務は何度かコクコクと頷いてから、ふっと鼻で笑い、見下すような目線を向けてくる。


「そうか……なら今すぐ出て行ってもらって構わないぞ。私はもう少し彼女とお話しするからね」


 そう言って、にやにやとした気持ち悪い笑みを浮かべながら、恵を見つめる常務のおっさん。

 再度視線を向けられて、恵はビクっと身体を震わせた。

 怯える様子を目の当たりにして、風太の勝手に口を開いてしまう。


「いえ、彼女もいっしょに選考を辞退させていただきます」


 風太は勝手にそう言い切って席を立ち、庇うようにして恵の前に立って常務からの視線を遮った。


「それは君が決める事じゃないだろ? その子が決めることだ」


 常務が顎で差しながら言ってくる。

 確かに、この選考を辞退するかどうか決めるのは恵が決めることだ。

 なので、風太は確認のため、後ろに座り込む恵へ尋ねることにする。


「選考辞退って事でいいよね?」

「えっと……私は……」


 風太が尋ねると、恵はどうしたらいいのか分からず視線を彷徨わせていた。


「どうやら、彼女は選考を辞退したくないみたいだぞ?」


 恵が何も言わないことをいいように捉えて、常務がにやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 風太はもう一度確認の意を込めて、恵へ視線を向けた。

 恵は風太の方へと視線を向けて、唇を引き結びながら無理やり笑みを浮かべて見せる。

 そんな恵の姿を目の当たりにして、風太は一つため息を吐いた。


(本当はあまりやりたくなかったけど、どうやら奥の手を使うしかないみたいだ)


 風太はポケットに忍び込ませていたスマホを取り出して、常務に向かって突き出して見せる。


「さっきの内容、全部録音してます。今から警察に証拠を突き出してもいいんですよ?」


 それは、先ほどから念のために録音しておいた音声記録の証拠。

 今もなお、音声は風太のスマホに録音され続けている。


「なっ……貴様、営業妨害だぞ! 業務執行妨害だ!」

「訴えたいなら訴えてもらって構いません。ただし、そちらが訴えを起こすのでありましたら、こちらとしてもそれ相応の対処をさせていただきます」

「ぐぬ……」


 警察沙汰になると、自分のキャリアに傷が付くことが分かっているからか、常務のおっさんはぐっと歯噛みしながら憎しみの視線を風太に対して向けてくることしかしてこない。


「帰ろっか」


 そう言って、風太は恵へ手を差し伸べる。


「えっ……でも……」

「平気だよ。もうこんな会社の面接、受ける価値なんてないから」


 風太はそう言い切って、恵の手を握って強引に立ち上がらせる。

 そして、正面に座る面接官と常務に向き合って一礼した。


「本日はありがとうございました。失礼します」


 社交辞令の言葉を言い切って、風太は足元に置いてあった荷物をまとめると、恵の手を取って面接会場を後にしていく。

 こうして風太は、セクハラ面接官から陽キャ女子大生(JD)恵を助け出したのであった。



 ◇◇◇



 面接会場を後にして、風太はエレベーターに恵と一緒に乗り込み、一階へと降りていく。

 二人の間には、気まずい空気感が漂っていた。


(しまった……俺はなんてことを!?)


 エレベータの中で、後悔の念に苛まれ、風太は白目を向いてしまう。

 いくら何でも、常務の人にあの方々な態度は印象が悪すぎた。

 下手したら、本当に訴訟を起こされてしまうかもしれない。

 

 そんな不安がよぎる中、エレベーターが1階へと到着。

 エントランスを抜け、オフィスビルの出入り口を出たところで――


「あのっ……あのっ……!」


 恵に声を掛けられた。

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