第7話 進んだ関係性

 チュンチュン。

 朝、圭斗けいとは雀の鳴き声で目を覚ました。


 ふにゅ。

 寝返りを打とうとしたところで、何やら暖かみのある柔らかいものにぶつかった。


「んぁ?」


 重い瞼を開くと、視界に映り込んできたのは、シーツに身を包んだ佳奈美かなみの姿だった。


「おはよう圭斗」

「お、おはよう……」

「んーっ」


 そんな佳奈美が、にこやかな笑みを浮かべたまま瞳を閉じて、ゆっくりとこちらへ顔を近づけてくる。

 圭斗も目を閉じて、佳奈美の方へと顔を近づけていき、ちゅっと軽いおはようの口づけを交わす。

 唇を離して、至近距離でお互いに見つめ合う。


「圭斗……好き」

「俺もだよ、佳奈美」


 お互いに愛の言葉を囁き合い、圭斗は佳奈美を抱きしめる。

 佳奈美はくすぐったように身を捩ったものの、すぐさま圭斗の腕の中に埋まって至福のため息を吐いた。

 シーツの向こう側はあられもない姿のため、抱きしめていると佳奈美の身体の柔らかさを全身で感じてしまう。


「ふふっ、昨日は凄かったわね」


 すると、佳奈美が奇をてらったかのように昨夜のことを言ってくる。


「し、仕方ないだろ。ずっと我慢してたんだから」

「確かにそうね。六年も我慢してたんだから、盛り上がっちゃうのも仕方ないか」


 くすくすと笑いながらも、嬉しそうな口調で囁く佳奈美。


「にしても、流石にはしゃぎ過ぎた。身体がだるい……」

「それはそうよ。私達、もう若くないんだから」

「世間的に20代はまだ若いだろ」

「そうかもしれないけど、体力的にはもう衰えてるのよ」

「確かに……」


 高校生の頃とは違い、意識的に身体を動かしていなければ体力は衰えて行ってしまうのだ。

 日ごろの運動不足が祟った結果である。

 今後のためにも、これからはしっかり運動をしようと心に誓った。


「ねぇ圭斗」

「ん、どうした?」


 佳奈美は上目遣いにこちらを見つめて、何かをねだるように甘えた表情を浮かべてくる。

 圭斗は佳奈美が求めているものを察して、ふぅっと息を吐く。


「目閉じろ」

「んっ」


 佳奈美は素直に目を閉じて唇を窄める。

 しばらくそのまま佳奈美のキス待ち顔を眺めていたい衝動に駆られるものの、佳奈美が可愛すぎて我慢できず、圭斗は顔を近づけていき、再び唇を重ねた。

 息を止め、数秒間お互いの温もりを確かめ合ってから、ゆっくりと唇を離す。

 目を開き、お互い見つめ合ったまま微笑み合う。


「なんか、付き合いたてのバカップルみたいだな」

「しょうがないじゃない。キスするの幸せなんだから。それに、私達付き合いたてよ?」

「それもそっか」


 六年という月日を経て、再び結ばれた二人。

 浮き足立ってしまうのも仕方がないと割り切ることにする。


「さっ、そろそろ起きましょう。遅刻しちゃうわ」

「……だな」


 幸せな時間もここまで。

 意識を現実に戻して、切り替えるようにして朝の支度を整えていく。

 支度中も視線が交われば何度も唇を重ねてしまうあたりは、お互い浮かれてしまっている。

 是非ともご愛嬌と言うことで許して欲しい。

 誰に問いかけているのかは分からないけれど。


 そんな幸せな時間もずっと続くわけではなく、無情にも現実が押し寄せてきてしまう。


「行きましょうか」

「うん……そうだね」


 玄関先で靴を履き、会社へ向かう準備を進めていく。


「もう、そんなに悲しい顔しないの」


 顔に出てしまっていたのか、佳奈美が眉を八の字にして顔を歪めた。

 そして、圭斗の方へ顔を近づけてくると、耳元でこっそり囁いてくる。


「また今日も仕事が終わったら……ね?」

「えっ、い、いいの?」


 食い気味に尋ねると、佳奈美はツーンと唇を尖らせながらそっぽを向いた。


「圭斗がちゃんと仕事を終わらせてくれたらねー! あなたは私の部下なんだから」


 そう言って、佳奈美は手を後ろで組みながら、圭斗を方へ向き直ると、背伸びをして圭斗に口づけを交わした。


「それじゃ、行きましょ」


 行ってきますのキスをされて、まだ夢うつつな気持ちのまま、圭斗は佳奈美に引っ張られる形で家を出て会社へと向かった。

 外へ出ると、雲一つない快晴で、春の陽気が漂っている。

 佳奈美のマンションを後にして道に出るなり、すぐさま手を繋いで歩いていく。

 もちろん、指と指を絡めた恋人繋ぎで。

「ヤバイ、こんなにイチャついてたら、会社で絶対バレるってこれ」

「別にいいじゃない。バレたって」

「佳奈美はいいの?」

「だって……ね? 私は圭斗の教育係なんだから、しっかり面倒見ないとでしょ?」

「それはそうなんだけど……」


 とそこで、佳奈美が顔を近づけてきて、耳元で囁いてくる。


「もちろん、夜の教育だって私がシてあげてるわよ♪」

「なっ……」


 唐突な佳奈美の爆弾発言に、圭斗は顔が熱くなっていってしまう。


「あーっ! 圭斗顔真っ赤。照れちゃって可愛いんだから」

「い、今のは佳奈美が悪いだろ」

「んー? 何が悪いのか全く分からないなぁー」

「……仕事が終わったら覚えとけよ」

「あら? 仕事が終わったら、どうするつもりなのかしら?」

「ピー(自主規制)してピー(自主規制)してやる」

「んふふっ、圭斗のエッチ」


 佳奈美は拗ねたような顔を浮かべるものの、口調は全くまんざらでもなさそうで、むしろ嬉しそうな感じさせしている。

 恋人に戻った佳奈美は改めて最強であることを実感して、もう勝てないなと諦めがついてしまう。

 けれど、そんなことも笑い飛ばせてしまうぐらいに、佳奈美との関係性が次のフェーズへと進んでいることに喜びを覚えてしまっている。

 六年越しに叶った進展に、圭斗は自然と笑顔が零れてしまうのであった。


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 7話までお読みいただきありがとうございます!

 これからも新作を随時更新予定ですので、良ければ【作者フォロー】よろしくお願いします!


 さらに、当作品『新しい転職先の上司が元カノだったのだが、何だか彼女の様子がおかしい』のサブストーリーとして、6.5話をサポーター限定公開致しました。

 ちょっぴりエロティックな佳奈美を見たい方は是非どうぞ!


【重要】

 尚、サブストーリーは本編の内容には全く影響ございませんのでご安心ください。



 今回は特別に、6.5話のお話をちょい見せしちゃいます!


 6.5話 『六年の空白を経て迎える二人の夜』


 佳奈美に寝室へと連れて行かれた。

 寝室は月明りだけが照らされているだけで、全体像は分からない。

 ベッドの前で立ち止まり、佳奈美がこちらへと振り返る。


「圭斗……」


 欲しがるような目でこちらを見据えてくる佳奈美。

 圭斗はためらうことなく、再び佳奈美の唇を奪った。


「圭斗……圭斗……っ」


 佳奈美が吐息を付くごとに、圭斗の名前を何度も呼んでくる。

 お互い背中へと手を回して抱き締め合い、温もりを確かめ合う


「佳奈美……」

「圭斗……」


 名前を呼び合いながら、何度も口づけを交わしていく二人。

 圭斗はついに我慢できなくなり、そのまま佳奈美の身体をベッドへと押し倒す。

 ベッドに倒れた佳奈美は、無防備な姿でこちらへ潤んだ瞳を向けていて――




 続きは下記URLからご覧ください!


 https://kakuyomu.jp/users/c_sabarin/news/16818023213538748045


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