第17話 いろんな報告とお誘い

「やっほ」


 バイトが終わり、帰路についていた俺の前にある1人の人物が立ち塞がった。

 

 オーバーサイズの白ティーを着て、見慣れた黒い無地の帽子を被り、全く意味のない顎マスクをしてる女の子。

 

「なんでこんな所にいるんですか。星野さん」


「ん〜? なんでだろうねぇ〜?」


 まるで偶然出会ったようにエコバッグを持って装っているが、こんな人気のない裏道で会うなんて一体何パーセントの確率なんだ。


「っと、意地悪はこの位にしといて。実は今日春くんに話しかけたのは、ちょっとした報告とか色々話したいことがあるからなんだよね」


「な、なるほど」


「ここで話すのも何だし、よかったら場所移動しない?」


「わかりました」



 そうして連れられた場所は、見覚えのある場所だった。

 落ち着いた雰囲気の店内が特徴的。

 店の端から端まで砂糖や蜂蜜の甘い香りが充満し、鼻が幸せな気持ちになる。

 そう、ここは一度星野さんと来て初めての共同作業をさせられたパンケーキ屋の「青空パンケーキハウス」。


 夕方前の1番お客さんが来そうな時間帯にも関わらず、周りの席は誰も座ってない。見る限り店員さんもいる気配がない。

 対面に星野さんが当たり前のような顔で座っていて、色々と不思議な空間だ。


「この間の裏波ちゃんの件、私の予想通りでその人には話しつけたからもう指示されることはないと思うよ」


「……それっていつくらいからそうだったんですか?」


「2、3日前くらいかな。忙しくて春くんに話すタイミングがなかったんだよね」


「そうだったんですか。別に大学での裏波さんの様子、変わってるようには見えなかったですよ」


 今も異様に距離感が近くて、頻繁に連絡を取ってきてる。

 でも今思えば2、3日前から距離感の詰め方がぎこちないかもしれない。

 背中や肩のボディータッチが増えたり。

 会話が続かないことが多かったり。


 前までの明らかな無感情な行動が無くなった。

 

「指示するのはやめてくれてるはずなのに。自主的にそういうことしてるのなら、ちょっと話が変わってくる……」


 ブツブツ小声で何か考え事をする星野さん。


 よく分からないけど、そんな深刻なことなのだろうか?


「春くんはその子のことどう思ってるの?」


「どうってほど思うことなんてないですよ。大学の知人ですかね」


「そっかぁ。そうなるのね」


「?」


 少し呆れに近い視線を送ってきた。

  

 モテるために努力してきたけど、人の気持ちとか言葉の真意とかは全く分からない。なんで俺ってこんな成長しないんだろう。


「まぁとりあえずその件はここら辺で終わりにして。もう一つ、春くんに言っておこうと思う事があるんだけど……ちょっと待っててくれない?」


「あっはい。全然待ちます」


「それじゃっ」


 そう言って立ち上がった星野さんは、店の従業員以外の立ち入りを禁止している方へ歩いて行った。


 誰もいないからっていくらなんでも好き勝手しすぎじゃない?


 そんな疑問はこちらに帰って来た星野さんの姿を見て解消された。


「じゃじゃ〜ん!」


 ピンクを基調としたチェック柄のシャツ。

 キャップのある白い帽子を被り。

 白いエプロンを上から着て、胸元には少し大きめなリボンが結ばれている。


 全体的に見て外国っぽさがあるこの服装は、ここ「青空パンケーキハウス」の店員さんがみんな着ている制服だ。


「ここで働く事になりました」


「おぉー! おめでとうございます」


「いぇ〜いっ!」


 嬉しそうにしている星野さんを見て拍手していた俺だったが、ふと過去の会話が頭をよぎった。


「あれ? 星野さんってテレビ関係の仕事やめたんですか?」 


「うぐっ。や、やめてなんてないよ」


「じゃあこれ副業ってことですか。すごいです!」


「……あっいや。実はテレビ関係の仕事をしてるって言うの、嘘だったの。初めての出会い系だったから見え張って嘘ついてごめんね」


 星野さんはしょんぼりして対面に座り、頭を下げて謝罪してきた。

 感情の振れ幅がジェットコースターみたいだ。


「嘘なんて俺だってついてるので、そんなに気を落とさないでください」


「なに嘘ついたの?」


「え? あっうーんと」


 ヤバい。ついた嘘がぱっと思いつかない。


「春くんって優しいね。ありがとう」


「…………」


「嘘ついてたのに信じてもらえないかもしれないけど、春くんには私のありのままの姿を見てほしい。前にも言ったけど、春くんの事も知っていきたい」


 星野さんは目を逸らし、段々と小声になっていく。


「初対面でデートに行った時、最後に約束したこと覚えてるかな」


「もちろん覚えてます。次は星野さんの考えたデートに行こうっていうやつですよね」


「うん。そのデート、次の土曜日に行かない?」


 突然の思いもしなかった誘いに一瞬時が止まった。

 デートの誘いなんて、俺がモテるために努力してから夢にまで見てたこと。


 嬉しくて今すぐ「うぉおおおお!!」と叫んで大喜びしたい所だけど、ぐっと堪える。


「土曜日暇なのでいつでも大丈夫です」


「それじゃあ詳しい時間はRINEで送るね。誘っててなんだけど、まだどんなデートにしようか悩み中なの」


「わかりました。首を長くして楽しみにしてます」


 その後誰もいない店で楽しく二人で雑談をしていたのだが、デートのお誘いが一生頭から離れず雑談に集中できなかった。

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出会い系でマッチングした子が変装した世界一可愛いで有名な元アイドルだった でずな @Dezuna

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