第15話 聞きたい事があるんだけど×2

 食堂でのことがあってから1週間が経った。

 あれから俺は来る日も来る日も異性とのコミュニケーションの本を読み漁った。……が、特に何も得ることはなかった。  

 そんなことをしていた日々も、裏波さんの奇怪な行動は続いている。

  

 講義中急に俺の頭を撫で始めたり。  

 通学中偶然出会い俺の隣を同じ歩幅で歩いたり。

 何も話してないのに隣同士でお昼ご飯を食べたり。

 

 そういうのとは別で会話している時は普通だった。しかし、毎日のように明らかに距離感が近くなる時があった。


 そうしているうちにその様子を見ていた同学年の人たちから、色んな噂が流れ始めた。


【あの2人はただならぬ関係】


 だの


【告ったのは実は裏波さんの方から】


 だの


【実はあの2人は大学入学する前から仲良くて周りにとられないように見せつけてる】


 だの。


 もちろん全て事実じゃない。


 噂話してる人達を見たらちゃんと否定して周っているが、噂の出回るスピードが半端なく、俺と助けてくれてる秀人の力じゃもうどうしようもない所まで来ている。


 裏波さんに言っても「そんなことどーでもいーだろ」と全く気にしてない。

 

「マジでこれどうすればいいんだ?」


 俺は頭を抱えて悩み続けた。


 しかし、一向に解決策が思い浮かばなかったので第三者の星野さんに相談してみることにしたのだが……。


『ふーん。へー。ほーん』


 返ってきたのはコレだけ。


『どうすればいいと思います?』


『本当にもう俺じゃどうしようもなくて……』


『気に障ったのなら謝ります。すいません』


『あの』


『星野さん?』


 あの反応が最後に、返答は返ってこなくなった。

 送ったらすぐ全て既読は付いてるから、見てるはずなんだけどな。


 急にどうしたんだろう? 

 もしかして俺なにか間違えたのか?


 ブーブーブー。


 送ったRINEを眺めていたら、通話がかかってきた。


 相手は星野さん……ではなく、裏波さん。


「はい。もしもし」


「もしぃ〜。あのさ聞きたいことがあるんだけど、今ちょっといい?」


「いい、ですよ」


 星野さんからRINE返ってくる気配ないしいいよな。


「この前、彼女いるのか聞いたけどそういう雰囲気の女はいるのか?」


「いません。……どうしてそんなこと聞くんですか?」


「いや。こちらの事情ってヤツだ。あたしにそれを聞かれても分かんねぇんだよ」


 こちらの事情で聞かれても分からない?

 なんだそれ。

 もしかして今までの行動も裏波さんの意志じゃないのか?


「……それ……め……レる」


「誰か近くにいるんです?」


「あ、ああ。今外にいるからな」 


「そうですか」


 今聞こえた声どっかで聞いたことある声だったんだけど……。


「もう聞きたいことは聞けたし、それじゃーな」


「はい。それでは」


 新たな謎が生まれて通話は終わった。


「意味わかんねぇー」


 イスの背もたれをリクライニングで倒し脱力し、考える。


 もしこれまで荒波さんの行動が全て誰かに言われてたとして、その指示の意図は?


 俺をターゲットにした理由は?


 考えた所で疑問しか浮かんでこない。


「あーダメダメ」


 こんな事考えてても時間の無駄だ。

 そういえば、星野さんから何か返ってきたりしてないかな?


「……え?」


【不在着信】

【不在着信】

【不在着信】

【不在着信】

【不在着信】

【不在着信】

【不在着信】


 とんでもない数の不在着信。急いで折り返す。


「あ、もしもしすいません。通話中でした」


「…………もしかしてさっき話してた裏波ちゃんって子と通話してたの?」


「はいぃぃや? 男友達から通話がかかってきたんです」


「ふぅんそっか。そうなんだ」


 少し声色が明るくなった。

 危ない危ない。事実のまま言ったら通話が切られてたかもしれない。


「聞きたい事があるんだけどさ」


「はい」


 全く同じ言葉さっき聞いたな。


「春くんは裏波ちゃんって子に色々されて、何か思う事とかないの?」


「もちろん知り合って浅いのにすごい距離感近いなって思ってますよ」


「ふーん。女の子の裏波ちゃんはどんな事思ってそういう事してるんだろうね」


「さ、さぁ? でもなんか人に言われてやってる感じっぽいんですよね」

 

「人に言われて?」


 さっきまでツンツンしてた星野さんの声色が急に真剣になった。


「実はこの前質問した時、こちらの事情で聞かれても分からないって言われたんです」


「それを先に言ってよね」


「すいません。今思い出しました」


 正確にはさっき聞いたことだけど。


「もうっ……」


 はぁ〜と、全身から力が抜けていくような大きな吐息がスマホ越しに聞こえてきた。

 

 俺はこういう女の子がどんな事を思ってるのか、1週間本を読み漁っていたので知っている。

 星野さんの雰囲気が一変したのは、俺が裏波さんの行動が人に言われてやったことだと言ってから。


 本通りだとこれは““嫉妬””だ。


「……裏波ちゃんに指示をしてそうな人に心当たりがあるから、ちょっと調べてみるね」


「え?」


 あれ。今の嫉妬じゃなかったの?

 

 すごい恥ずかしいんだけど。


「春くんも知ってると思うよ。多分会ったこともあると思うから」


 恥ずかしくて顔が真っ赤になってる中、星野さんの言葉にある一人の女の子の顔が浮かんだ。


 青髪ショートカットで星野さんが大好きなあの人。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る