第13話 ようやくモテ期到来……?

 大学の講義は毎回眠くなる。

 内容に全く興味がなくて、バレないようにスマホでゲームしたり漫画を読んだりするのが日常。俺はいつも周りに誰もいない席に座り、のんびりまったりしているのだが……。


 隣の席に座ってきた人がいた。


 金髪のロングヘア。細い眉毛で、耳には複数のピアス。背中に龍の刺繍が編み込められた厳ついスカジャン。大きな豊満な2つのメロン。

 まるでヤンキーみたいな女の子だ。

 気だるそうに講義を聞いてるけど、猛獣のような威圧感がある。

 

 なんで他に座る所はたくさんあるのに隣りに座ってきたんだ?


「あたしのこと覚えてる?」


「えっ、あ……えっと……」


 こんな怖そうな人と知り合いだっけ。


「んあ〜。ま、入学した初期の頃の講義で少し喋ったくらいだからそうなるか。すまねぇ」


「いやいや全然。覚えてない俺のほうが悪いので。……ところでお名前は?」


「あたしは裏波うらなみ龍子りゅうこ。そっちはたしか、中村春樹だっけ」


「そうです」


「初めて話した時からお互い変わってねぇな」


「………………」


 変わってない、と言うのは周りに知り合いがいないことを指しているんだろう。

 現に俺はモテるための努力ばかりしていたせいで、大学に秀人以外の知り合いと呼べる人はいない。

 この人の場合は、その外見や荒い口調が原因で周りに人が寄り付いていない事が容易に想像できる。

    

 理由は全く違うのに、「お互い」だなんて言って肩を組んできて仲間扱いされてのは少し不満。


「あーあ。講義つまんねぇ〜」


「………………」

 

 出会って2回目、それも初対面から少し時間が経っているといるということもあって何喋っていいのかわかんない。


 俺が知ってる限り、外見が特徴的で口調が荒い人はろくな人がいない。男子校でやんちゃしてた頃の仲間がそうだった。


 今後のことも考えると、こういう人とは関わらないのがベスト。

 

「春樹は大学の講義まともに聞く派?」


 問いかけられたら答えないわけにはいかない。


「いやぁ……あんまり聞かないですね」


「だよな! まともに聞いてたら今頃寝てるぜ」


 ろくな人がいないと思ってたんだけど、この人は意外と話が通じるタイプかもしれない。


「こんな講義でも、来ねぇと単位取れねぇから行かないと行けないの終わってるよな。仕方ねぇけどさ」


「好きな講義とかあるんですか?」


「ん? 好きな講義か……。ないな。もう知ってることを教授が言ってるだけだし」


 もう知ってることだって?

 俺は、大学の講義で習う内容なんてほとんど知らない事ばかりなのに。

 この人見た目のよらず頭良いのか。


「ところでさ、せっかくこうして再会したからRINE交換しねぇ?」


「RINEですか……。もちろん交換しましょ」


「やったぜっ! 大学で初めて交換するRINEだ!」


 すごく嬉しそうな裏波さんを横目に交換したRINEを見る。


 アイコンはゴツいバイクに乗って龍の旗を掲げてる裏波さん。今にも動きそうな、映画のワンシーンかのような迫力がある。

 そして一言コメントは『すぐ返さないことあるけど見てねぇだけだから。よろしくな!』。


 これで俺が大学生になってから交換した異性のRINEは2つ目。

 モテる努力をしたからこうなってるのかは定かじゃないけど、嬉しいな。


「なぁなぁ。春樹はよ〜大学でどれくらいRINE交換したんだ?」


「俺も裏波さんと同じです」


「おぉー! そうなのか! それじゃああたし達、お互い初めてを奪い合ったってことなんだな!」


「ちょ。言い方……」


 大きな声で誤解を招くような言い方をされたせいで、周りの視線が一気に集まった。そのほとんどが「なんでこの二人が仲良くしてるんだ?」と言わんばかりの、訝しさをはらんだ視線。


 そんな中、裏波さんは何も気にせず俺のRINEに目をキラキラさせてる。


「そこの二人。今講義中ですよ。私語は慎みなさい」


「ご、ごめんなさい」


「さぁーせぇーん」


「続けます。であるからして……」


「うっせぇーうっせぇーぶーぶー」


 すぐ不満を爆発させた裏波さんだったが、今回は俺にだけ聞こえる小声だ。


 やっぱりこの人はその見た目によらずちゃんとしてる。


「ところで春樹って彼女いる?」


 あまりにも急な質問だ。


「え。いませんよ。いると思いました?」


「うーん。うーん……」


「聞いてごめんなさい。大丈夫です」


「いや、いなそうってことを言いづらいから悩んでたわけじゃないからな。いてもおかしくないって思ってた」


「本当ですか?」


「あたしが大学で初めてRINE交換した人に嘘つくわけ無い」


「その理由、全く信じる要因にはならないですけど」


「嘘だろ!? あたし初めてだったんだぜ!?」


「私語は慎みなさい!」


「本当にすいません!」


「さぁーせぇーん」

 

 裏波さんはそう言って話すのをやめ、スマホを弄り始めた。度々監視するように教授がこちらに鋭い視線を向けてきて、ずっと胃が痛いのだが……。


「ふーんふーふーふーん」


 隣からは呑気な鼻歌が聞こえてくる。


 ……どうやら俺は、とんでもない人と知り合いになったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る