第12話 ビデオ通話を終えて 星野凛乃視点

 緊張で固くなった体から力が抜けて、ベットに倒れ込んだ。

 

 まだ歯磨きしてないし、本も読んでないし、ストレッチもしてないから寝ちゃいけないのに……。

 恐るべしベッドの魔力! 

 ビデオ通話をして結構疲れちゃったなぁ。

 ずっとしたかった約束ができて、更に伝えたかった事を伝えられたし大満足。その後にアイドルの衣装を着させられたのは本当に謎だけど。

 

「でもたくさん喋れたて良かった」


 チャットじゃ長時間やり取りしたことあっても、あんなに長く顔を見ながら喋ったのは初めて。


 笑い合って語り合って、アイドルをやめてから今までで一番楽しい時間だった。

 きっとビデオ通話じゃなくてリアルで会ってたら、こうはならなかったんだろうなぁ〜……。

   

 もしかしてビデオ通話をした私って天才?


 まぁ、気まぐれでしただけなんだけどね。


「ふぅ」

 

 ビデオ通話を終えてもう5分は経つのに余韻がすごい。

 数万人がお客さんのライブで好きな曲のサビを歌いきった時の余韻より重くて好き。


 こういうの““幸せ””って言うのかな。


 私が人と接して幸せだって思うなんて、2年前なら考えられない。

 あの頃はとにかく他人なんて視界に入ってなくて、理想ばっかり追いかけてた。

 その結果が、本当は無職なのに出会い系で知り合った人に見栄を張って嘘つくような人になるなんて思いもしてなかった。


 少し前に話してた春くんの言葉が頭に浮かぶ。

 

「人って変わるんだなぁ」


 もし今頃、事務所が何事も不祥事を起こさずアイドルを続けていたら私はどんな事を思ってアイドルをしているんだろう?


 ぜったい今みたいに余裕がなくて、人間らしくもない。

 結果的にこうして一般人になったのは良いことだったかもしれない。

 でもそう確信できるのは、きっとこれからの行動次第なのかな。


 どんどんどんどん変わっていきたい。

 決めた。下を向いて歩くのはもうやめる。

 前を、未来を見ながら歩いていこう!

 その第一歩として、まずはどこかで働きたいな。

 何も知らない場所で働いたらきっと周りに迷惑ばかりかけちゃうし、できるなら理解してくれる場所のほうがいい……。


「パンケーキ屋」


 あそこなら通ってて定員さんの人たちとは顔馴染みだし、私が働くことを理解してくれそう。

 この前行った時、求人の張り紙が貼ってあったから丁度いいかもしれない。


 でも、ちゃんと働けるのかな私……?


「そんなこと気にしてても仕方ないか!」


 ブーブーブー。


 そう吹っ切れた時、春くんからRINEが来た。


『急にビデオ通話きてビックリしたんですけど、楽しかったです! 一足先におやすみなさい』


『私も楽しかった! 付き合ってくれてありがとう。おやすみね』


 RINEを返して、スマホをベッドに置く。

 そして近くに置いてある不動産の資料を手に取る。


 前引っ越しを考えから、最近は内見で色んな場所を見に行っていた。結構見たけど、資料が分厚くなるくらい中々決められずにいる。なんかどれもピンと来る所がない。


 もう決められないし、パンケーキ屋の近くのマンションにでもしようかな。


 そういえばここって春くんが通ってる大学の近くだったよね。

 もしかしたら道を歩いててまたばったり会うことも……。


「いいねいいね!」


 まだ知らない春くんの大学生としての一面も見れるかもしれない。


「一石二鳥じゃん」


 よし。今度パンケーキ屋のバイトの面接を受けに行こう。


 引っ越しはその面接次第かな。


 あぁこれからが楽しみだぁ〜。



 

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