第11話 気になり始めてるって？
「人に嗅ぎ回れるの嫌だからさ……。私と春くんの間でのことは周りにはぜぇーんぶ秘密にしない？」
【世界的に人気だった元アイドルが大学生の一般男性と親密な関係】などと報道されたら、俺もたまったもんじゃない。すごく良い提案だ。
「わかりました。秘密にします」
「もし雫が探りを入れてきても、ちゃんと追い払うんだよ？ あの人世話焼きな所あるから絶対また来ると思う」
「その時は任せてください。約束は守ります」
「大丈夫かなぁ。雫ってああ見えて結構大胆だから、「お、し、え、て♡」って色仕掛けされても約束を守り抜く自信ある？」
「………………きっと大丈夫です」
「急にレスポンス遅くなったね！？」
しっかり断言しない俺に星野さんは不満そうに口を曲げた。
「とにかく、周りには言わないでね」
本間さんが色仕掛けするなんて思えないけど、されたらどうなるかなんて正直わかんない。でも、約束は守りたい。これはお互いのためでもあることだ。
ぽろっと言っちゃいそうで怖いな。
「あともう一つ約束……じゃなくて、お願いがあるんだけどいいかな？」
「どうぞ」
「私、春くんのこともっと知っていきたいの。だから色々教えてもらえると嬉しい」
「もちろん教えます。でもなんで知りたいんです？」
「もう、そんなこと私に言わせないでよね。……春くんのこと気になり始めてるの」
「気になりは、じめ……てる？」
今の聞き間違いじゃないよな！？
「まだそういう風に想ってるわけじゃないよ！ あくまで人として気になって知りたいって思ってるだけだからね？」
それって実質そういう風に想い始めてるってことじゃないのか？
「私の言ってる意味ちゃんと分かってる？」
「は、はい」
「本当かな？ まぁいっか。じゃあ早速高校の時の事とか聞きたいなぁ〜」
「高校ですか……。男子校に通ってて、同級生とずっとバカやって遊んでいたせいで成績悪かったくらいしかないです」
「へぇ〜やんちゃしてたんだ。全然想像つかない」
髪を染めたり、遅刻常習犯だったりと校則違反ばかりしてた。高校生の頃の俺はそれが““かっこいい””と本気で思ってた。でも途中で秀人と出会って考えが変わる。
そこまでがワンセットだけど、言うと詳しく聞かれそうで嫌だ。あんまこれ他人に話したくない黒歴史なんだよね……。
「人って変われるんですよ」
「って言うことは、変わる前もモテなかったんだ」
「それ普通に地雷ですよ？」
「あっ。すぅー……」
気まずそうに息を呑む星野さん。
「お、お詫びになにかしよっか？」
「そう言われると余計惨めになるんですけど……。実はずっとしてほしかったことあるんですよね」
「なんでもするわけじゃないからね！？」
▼ ▲ ▼
「じゃじゃぁ〜ん！ どうどう？」
赤を主体としたスカートがフリフリしてるアイドル衣装に身を包む星野さん。
俺のしてほしかったことは可能ならアイドル衣装を着てみてほしい、ということ。それを聞いた時は面倒くさそうにしていた星野さんだったが、今はノリノリで決めポーズまでとってる。
「すごく可愛いです」
「ちゃんと髪の毛セットしたらもっと可愛くなるんだけどねぇ〜」
ここだけの話、俺は最近エクリプスにハマってる。
ハスキーボイスが堪らないブラックインヴェルト。
キュートなダンスや歌声が堪らないネオンハートビート。
それらの曲を何度もリピートして聞いたり、お金を払って過去のライブを見るほどだ。でも見れば見るほど、普段接してる星野さんとのギャップに風邪をひきそうになる。
今着てるのはついこの間見たライブの時着てた衣装じゃないか……？
「そんなジロジロ見られると恥ずかしいんだけど」
「すいません。そんなつもりはなかったです」
「……それはそれで悔しいな」
「今なんて言いました？」
「なんでもない！」
星野さんは俺が意地悪してるように思ってるみたく、ふんっと決めポーズをやめてしまった。
本当に聞こえなかったんだけどな。
「元の服に着替えるからね！」
「いやもうちょっとだけその衣装着ててくださいよ〜」
その後も他愛のない雑談をして、ビデオ通話は終わった。
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