第10話 初めてのビデオ通話

『最近思うんだけどさ、私達結構頻繁にDMでやり取りしてるから出会い系アプリでやり取りするの面倒くさいんだよね』


『同感です』


『だからさやり取りするの出会い系アプリじゃなくてRINEにしない?』


『俺は構わないんですけど、星野さんは俺に連絡先教えてもいいんですか?』


『いいよいいよ。ただし誰にも教えちゃダメだからね』


『了解しました』


 これが出会い系アプリのDMでの最後のやり取り。


 星野さんが提案してきたRINEとは無料でメッセージのやり取り、音声通話、ビデオ通話ができるスマホを持つ誰もが使うアプリケーション。このアプリは有名だがその性質上、個人情報の扱いには慎重にならないといけない。

 星野さんのRINEが流出したら大問題確定。俺にRINEを教えてくれるっていうことは、初対面の時から格段に信用されるようになったってことだ。そう思うと素直に嬉しい。


「お」


 早速星野さんのRINEと友達になれた。  


 星野さんのアイコンは初期設定のままで真っ黒。

 一言コメントは『わおわおわおわおわーおわおわおわおわおわーわーわーわーおわおわおわ』。

 普段RINE使わないのかな。すごい適当な設定。

 最初は無難な『よろしく』スタンプでも送っとこ。


 プルルル……プルルル……。


「!?」


 スタンプを送った直後、星野さんから通話がかかってきた。それもただの通話じゃなくビデオ通話。


 なんで急にまたビデオ通話? 

 全然着信音が止まらないし、間違えじゃなさそう。

 ヤバい! とりあえず顔洗わないと。


「も、もしもし。すいません出るの遅くなりました」


「おっそぉ〜い!」


 ポニーテールの星野さんが画面に映し出された。白いTシャツとラフな格好。後ろには大量のぬいぐるみが置かれてるベットが見える。プライベート丸だしだけど大丈夫なのかこれ。


「RINE交換した直後にビデオ通話なんて来ると思ってなかったんです。星野さんは……準備万端みたいですね。元々ビデオ通話するつもりだったんですか?」


「ギ、ギクッ! 勘が鋭いね」


「え。本当にそうだったんですね」


「ひどいよ! 春くん私のことハメたね!?」


「適当に言ってみただけです」


「うぐぐ」


 後ろにあったぬいぐるみを抱き寄せてキーッ! と野生動物みたいに威嚇する星野さん。


「それで。ビデオ通話した理由ってなんです?」


「理由? そんなの春くんの顔見て喋りたかっただけよ」


「……といいつつ?」


「いや本当だから! 家にいる時どんな格好してるのかとか、背景を見てどんな家に住んでるのかとか知りたいわけじゃ……あっ」


 今全部言ったように聞こえたけど。


「と、とにかく理由はないからね。RINE交換してせっかくだからビデオ通話で話したくなっただけ」


「変に疑ってすいません」


「わかってくれればいいんだから」


 バレバレの作り笑顔でそう言ってきた。さっきした自爆がそうとう堪えてるみたい。


 カラオケの時はグイグイ来てたけど、こうしてポンコツな所を見ると調子が狂う。

 この前本間さんが言っていたけど、星野さんはほとんど人間関係が上手くいってなかったらしい。それを踏まえると、このいったりきたりする距離感に納得できる。……とは言ったものの、女性経験ゼロの俺は異性関係で何が正解かわからん。


「そういえば春くんの通ってる大学って結構頭が良い人が行く大学だよね」


 星野さんが大学について触れてくるなんて珍しい。


「表向きは言われてるんですけど、全然そんなことないですよ。その証拠に俺バカです」


「そうかなぁ〜? 周りの平均が高いだけじゃない?」


「高校の期末テストで下から8番目の成績だったことありますか?」


「お、おぉ……。めちゃリアルな数字……」


「逆に聞くんですけど星野さんは頭良いんです?」


「ふふっ。それ聞いちゃうかぁ〜」


「聞いたらまずかったら取り消します」


「ふ、ふーん。取り消すねぇ」


 もう一回聞いてほしそうにチラチラこっちを見てきてる。


「頭良かったんですか?」


「高校の期末テストでの最高順位は学年1位だったからね!」


「えっすご」


 星野さんはあんまり自分から勉強を好んでするようなタイプに見えないんだけど……。

 

 アイドルで成功して、努力し続ける才能があって、頭も良いなんてどれだけ凄んだこの人。俺とは比較にならないレベル。


「まぁテストの点数は良かったけど、アイドルになるための練習をしてて出席は必要最低限しか行ってなかったから、成績自体は良くなかったんだけどね」


「じゃあ高校での成績は俺のほうが上になるということに……」


「そ、うはなっちゃうか、な」


 眉間にシワを寄せ、奥歯を噛み締めてすごい悔しそうだ。


 きっと俺が勝てる所はこういう所しかないんだろうなぁ。


「あっそうだ! 春くんに言いたいことがあったんだ」


「ど、どうしました?」

 

 表情が一変して真面目になり、声のトーンが1つ下がった。  

 急な変わりように、さっきまでのほんわかした空気が引き締まる。


「これは別に圧をかけてるとかじゃないんだけど、春くんって私との事友達に喋った?」


「いえ。まだ仲良い友達とゆっくり喋る機会がなくて何も言ってません。……友達じゃない人に聞かれたので喋りました」


「雫のことだよね」


「……はい」


 もう把握済みだったんだ。


「人に嗅ぎ回れるの嫌だからさ……。私と春くんの間でのことは周りにはぜぇーんぶ秘密にしない?」

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