第9話 単刀直入に聞く
道端で突然本間さんに声をかけられた俺は今、高級そうな店の個室にいる。テーブルには見たことのない金箔がのった高そうな料理が並べられており、その全てが奢りだと言う。しかし、俺は緊張で手がつけられていない。
正面に座って上品に料理を食べる本間さんとは、ここまでまともに言葉を交わせれておらず沈黙が続いている。
「せっかく2人分注文したのにあなた食べるつもりないの?」
「え。あっはい。いただきます」
慌てて料理に手をつけ始めると、すごく不機嫌そうになった。初対面で何も説明されずにここまで連れてこさせられ、知らないうちに2択を迫られる。
これで印象が悪くなるなんて理不尽過ぎるだろ。俺は何も悪くない!
そんな精神で料理を食べ進めた。
もちろんその間、個室の中で会話が生まれることはない。
そうして20分近く沈黙のまま一通り食べ終えると、ようやく本間さんが俺に体を向けた。
「単刀直入に聞かせてもらうわ。あなたと凛乃は一体どういう関係なの?」
腕を組んで真剣な眼差しを向けてきてる。元アイドルが俺なんかに声をかけてきた理由は星野さんに関係あると、予想はできていた。
「いたって普通の関係です」
「その普通は何が基準の普通なのかしら。人によっては肉体関係があるのが普通って言うわよ」
「……好きな事で意気投合してDMで連絡取り合うような関係です」
「ふーん。そう」
素直に答えたのに本間さんはムッとした表情になった。
なんでそうなる!?
「実はさっき偶然パンケーキを食べさせ合ってる所見たのだけど、それはどういうこと?」
あれを見られてたの恥ずかしすぎる……。
「あ、あれはメニューの表記上仕方なかったんです。そのパンケーキを食べたいって言ったのは星野さんです」
「断ることもできたわよね」
「……まぁはい」
尋問のような詰め方に胃がキリキリする。このままじゃどうにかなってしまいそうだ。できれば早く帰りたい。
「あの、俺をここに連れ出した理由は今のことだけですか?」
「いえ。あなたがどんな人なのか知るためでもあるわ」
「な、なぜ? 初対面ですよね」
「……凛乃が知り合いの俳優にとある頼み事をしたって耳にしたの。それを辿ったらあなたがいたってわけ」
知り合いの俳優に頼み事?
俺にそれがどう関係してるんだ?
「何言ってるのか分からない顔ね。最近凛乃といておかしな事があったんじゃないかしら」
おかしな事と言ったらついさっきのパンケーキ屋での出来事だけど、それは時系列におかしくなる。
「チャラ男3人組……」
「見当がついたようね」
今思えばただのナンパにしてはおかしかった。すごく強気で最終的には俺に手を出してきたし。そういえば『助けて』のDMが来たタイミングも良すぎたな。
……あの人達が俳優だった事は少し納得できるけど、疑問が残る。
「なんでそんなことしたんです?」
「私もそれが分からなかった。だからこうしてあなたを探ってみたのだけど……。ごく一般的な反応をされて余計分からなくなったわ」
「そのこと星野さんに直接聞いたりはしてないんですか」
「もう全然連絡取ってないし、同じアイドルグループじゃない私にそんなことできないわよ」
少し悲しそうな顔になった。本間さんは烏龍茶を一気に飲んで大きく深呼吸をする。
「あの子、まず人を疑う所から始める癖があるの。疑うことは悪いことじゃないのだけど凛乃の場合すごく極端で、今までほとんど人間関係が上手くいってなくてさ……。でも前向きに必死で……」
星野さんの事を話す本間さんからは包み込むような母性を感じる。話すのに夢中になっているのか、クールでかっこい可愛い姿が完全に崩れていることに気づいていない。
アイドル時代はグループでお姉さん的立ち位置だったのかな。
っと、今はそんなことどうでもいいか。
「……俺は星野さんとは知り合って浅いですけど、あの人は純粋で裏表の少ない人だと思ってます。なのでそんなに心配しなくてもいいと思いますよ」
「そうは思ってるのだけど。そうね。その通りだわ」
俺の言葉を素直に受け入れ納得してくれた。結構強情な人だと思ってたから意外だ。
本間さんは肩を落として俺へ優しい目を向ける。
「凛乃と仲良くなってるのはよくわからないから詳しく聞きたい所だけれど、やめておく。あの子の邪魔はしたくないから」
「聞くことが邪魔になるとは思いませんけど」
「なるのよ。鈍いあなたには分からないでしょうがね」
最後に一番大きいため息を吐かれ、その後俺達は特に喋ることなく解散した。
今度こそ濃い1日が終わる。
「……つかれたぁ」
なんで星野そんは俳優の人に頼んでまでチャラ男を演じてもらったんだろう……?
本間さんにはなだめるためにああ言ったけど、その行動は意味不明。絡まれてるヒロインを助けるっていうのは、ラブコメ漫画にはよくある展開だけど……。流石にそんなの関係ないよな。
考えれば考えるほど、謎が深まるばかりだ。
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