第6話 これからのこと 星野凛乃視点あり

「今日は来てくれてありがとう。急に全部丸投げしちゃったけど、すごぉーい楽しかったよ!」


 夕暮れ時の駅前。星野さんの無邪気な声で完全に目が覚めた。カラオケボックスで思考回路が焼き切れてからここまで、おぼろげな記憶しかない。


 なんか質問の嵐だった気がする。

 内容は……忘れた。

 まぁ突発的な俺主導の人生初デートだったけど、星野さんに楽しんでもらえたのならいっか。


「またデートしようね?」


「俺なんかで良ければよろしくお願いします」


「逆方向だから、それじゃあまた。ばいばい」


 星野さんの背中が人混みの中に消えていく。


 最初はからかってたけど今回のがデートだとすんなり認めたということは、だ。

 俺を話が合う友達としてじゃなく、異性として見てることになる……。


「んなことあるわけ」


 そういえば、結局出会い系をしてる真意は分からなかったな。

 深い関係になりたいってことくらいしか分からない……。

 ああヤバい。また思考回路が焼ききれそう。考えるのをやめよう。

 

 ま、きっと俺の日常は何も変わらないはず……だよな?


 今日一日あったことを振り返ったせいで、嫌な予感は拭いきれなかった。



  ▼  ▲  ▼  星野凛乃視点



 一世を風靡したアイドルグループ――エクリプス。私はそこでセンターとして一番前で歌い、踊り、時にはバラエティ番組に出演していた。


 そして、解散した今。


 メンバーのしずくは音楽関係の仕事をしていて、キリハはポンコツキャラで芸能活動を頑張っている。

 一番世間からもてはやされてた私は、無職で出会い系アプリを使って気になる男の子とデート。

 

 本当、人生って何があるかわかんないや。

 

 電車に揺れながら、今日協力してくれた人達に連絡をしておく。


『遅くなったけど、私のために演じてくれてありがとう(⁠≧⁠▽⁠≦⁠) めちゃくちゃリアルで完璧だった! 俳優業頑張って。応援してる!』


 チャットを送った相手は猫の銅像近くで私のことをナンパしてきた3人組。この人達は知り合いの俳優見習い。私が『その演技力で騙して欲しい人がいるの』とお願いしたら、無償で快く受けてくれた。

 

 なんでこんな事をしたかって?

 色々理由はあるけど一番はその人の本質的な所を見てみたかったから。あの状況で何もしない人だったら、きっとそこで帰ってた。


 ……というか、こういう出会いにはハプニングが付き物だよね。ラブコメ漫画でよく見る展開だし。

 今回のは私が仕込んだハプニングだけど。


「ふぁ〜」


 春くんは今頃、どんな事を思ってるんだろう?

 私が伝えた気持ちに振り回されてるのかな。それとも全然関係ないこと考えてるのかな。


 そう思っていた時、ちょうど春くんの方からDMが送られてきた。


『今日は本当にありがとうございました。DMでしないような話ができて嬉しかったです! 今度は星野さんが考えるデートプランを楽しみにしてます』


「んふふっ」

 

 まだまだ振り回されてるみたい。

 

 今日何度も思ったことだけど、こんなに人と向き合ってる人初めて見た。アイドルだった時からの癖で疑ってばかりだったのに、あんなに真正面から返してくるなんてすごい。


 私にはできないなぁ〜。


『こちらこそありがと! 次は大人のデートっていうのを見せてあげる<⁠(⁠ ̄⁠︶⁠ ̄⁠)⁠>』


 今までデートなんてしたことないけどねっ!

 実は男性経験なくて、今無職なんだよって言ったらどんな反応が返ってくるんだろう……。

 それを言うにはまだ勇気がいる関係性。


 これから私は変わっていきたい。

 今日のデートで春くんを間近で見て、そう思えた。

 引っ越しでもして、心機一転しようかな。

 カラオケで春くんに通ってる大学を教えてもらえたし、今度行ってみよう。


 こんな特定の人と接したいと思ったのは初めて。


 世界一可愛いアイドルなんて言われてたけど、世界一拗れてる女だってこと私自身よくわかってる。好きな漫画キャラが馬鹿にされてたら、裏アカでレスバしまくるくらい拗れてるもん。

 

 迷惑にはならないようにしないとね。


 出来る限りは。


 ……あぁ。


 アイドルを辞めてからこんな心が弾んたこと、あったかな。


「楽しみだなぁ〜」





――――――――――――――――――――――――

♡読んで頂きありがとうございます。

★作品のフォローや、星をもらえると励みになります。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る