第4話 ぎこちない初心な二人

 ウキウキで楽しそうな星野さんに連れられ、そこそこ大きい湖がある公園に到着した。遊具がある場所はたくさん人がいるが、今俺達がいる湖周辺は偶に人とすれ違うくらい人気が無い。


「ここに連れてきた私が言うのもなんだけど、何を話したらいいのかよくわかんないや」


「安心してください。俺もわからないです」


 出会い系で人と会うってだけでも緊張するのに、相手が元人気アイドルだなんて……。


 こんなの誰でも喋りづらくなるよな!? 


 でも、そんなことでウジウジしてたら不自然に思われてしまって当然。ここは一歩勇気を出さないと。


「昨日寝る前に色々話したいこと考えてたのに全部飛んじゃってる……。誘ったのにごめんね。楽しくないよね」


「そんな落ち込まないでください。じゃあそうですね、星野さんの好きな食べ物ってなんですか?」


「好きな食べ物?」


 顔に「?」を浮かべ首を傾げる星野さん。


「俺達って好きな事は結構DMでやり取りしてるんですけど、まだお互いのこと全然知らないですよね。俺、もっと星野さんのこと知りたいです」


「なるほどね。えっと好きな食べ物はトマト! かな。ちなみに嫌いな食べ物はゴーヤ。苦いの食べれないの」


「もしかしてコーヒーは……」

 

「角砂糖10個以上入れないと飲めないよ」


 予想通りの言葉が返ってきた。それにしても角砂糖10個ってかなりの甘党だな。


「春くんの好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」


「好きな食べ物は……肉全般で、嫌いな食べ物はピーマンです」


「ふふっなんか子供っぽい答えだね」


 トマトが好きでゴーヤなど苦いものが苦手で甘党の人に笑われた。

 どっちもどっちな気がするけど、星野さんに笑顔が戻ったからどうでもいいや。


 そんな風に思っていると、隣を歩く星野さんはじーっと俺の顔を観察するように見ていた。

 反射的に背筋が伸びる。


「なんか春くんこういうの慣れてるよね」


「? どういうことです?」


「女性とのコミュニケーションがすごぉーい上手なの。私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれてるし、話しやすい話題で会話を回してるし。……プロフィールに書いてたこと本当?」


「本当ですよ!? そういうことネットで調べたり、友達に聞いたりして勉強したんです」


「ふーんそうなんだ」 

 

 全然納得できていない言い方。

 申し訳ないけど、俺としては勉強の成果がでて嬉しい。

 

「むう。ニヤニヤしてる……」


 やばい。顔に出てた。


「俺、出会い系を始めてリアルで会ったの星野さんが初めてですよ?」


「それは私もそうだけど、それとこれは別な気がする。……よし! じゃあ真実を知るためにここからのプランは春くんに全部任せる!」


「……マジですか」


「マジなのです」


 今日は星野さんから誘われたこともあって、何も考えてきてない。


 出会い系でリアルで会って行くところって言ったら、水族館とか遊園地とかその辺か?

 でも、そういう所に行くのはデート目的のイメージがある。

 うん? というかこれデートなのか?

 

「星野さん。つかぬことを聞くんですけど、デートの基準って何だと思います?」


「男女が二人で外に遊びに行くこと、かな。あっ! もしかしてそういうの意識して決めるつもり? ふふふ。どこにするぅ〜?」


 悩む俺に注がれる期待の眼差し。


 色々ぬけてるところは多いけど、さぞかしその美貌や立場からいろんな男から引く手あまただったんだろう。しかし、相手しているのは彼女いない歴=年齢の俺。

 ショッピングモールや映画館、おしゃれなカフェなど様々な候補が頭に浮かんでくるが。 


「星野さんって歌好きですか?」


「うん。聞くのも歌うのもどっちも好きだよ?」


「それじゃあカラオケに行きましょう!」


「…………プロフィールのこと疑ってごめん」


 ちなみにネット情報だと初デートでカラオケに行くのは絶対にNG。密室空間が良くないのは過去の俺が予習済みだ。


 そんなカラオケを選んだのには理由がある。


 星野凛乃さんが出会い系をしているその真意を知るためだ。






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