第3話 自己紹介は邪魔者を駆除した後

 準備は整ったが、集合時間まで時間があったので夢月ももかのことを調べてみることにした。


【ソロアルバム総売上枚数4400万枚】

【MV動画同時視聴者数ギネス記録達成(計3回)】

【トップアーティスト賞歴代最年少受賞】

【世界一可愛い女性ランキング2年連続堂々1位】


 詳しくなくても見ただけでわかる歴史的な記録の数々。日本語だけではなく、別言語でも夢月ももかのことをまとめたサイトがたくさんある。


 秀人が言ってた通りめちゃくちゃすごい人じゃん。


「まぁやっぱ同じ顔だよな」


 夢月ももかの顔とDMで送られてきた顔は瓜二つ。


 分かりきってたことだけど複雑な気持ち。

 これから会いくんだよな俺……。ヤバそうだったらすぐ秀人に連絡しよっと。

 

 続いて動画配信サイトにあったアイドル時代のライブ映像を見てみる。


『みんな大好き〜! 心を込めて歌うから全力で楽しんでいってねっ!』


『『うぉおおおおおお!!!!』』


『それでは聴いてください――』

 

 俺が知ってる可愛さ全開のアイドルとは全然違った。

 繊細で少し触ったら壊れてしまいそうな薄いガラスのような歌声。

 一曲しか聞いてないのにちょっと感動して潤っときた。愛されて人気になる理由がわかる。


 こんなダイヤモンドみたいな人が今や芸能活動を引退して一般人だなんて。

 この前秀人が言ってたことがわかった気がする。

 

「もう少し早く知ってたらな」

 

 そんなこんなしているうちに集合時間の13時が目前に迫っていた。



  ▼ ▲ ▼



 集合場所は人がよく待ち合わせをする有名な猫の銅像前。

 ギリギリで家を出て電車が遅れてたせいで、もう13時を過ぎていた。

 初対面なのに遅刻なんてヤバい。


 俺は焦り息を切らしながら銅像前に到着した。

 休日だけあって、同じように待ち合わせしてる人がたくさんいる。

 これどこにいるんだろう? DMで聞いてみよう。


『すいません。今到着したんですが、人混みでどこにいるかわからないです……。詳細な場所を教えてもらえませんか?』


『端にいる助けて』


 1コンマも待たずに緊迫した返事が返ってきた。


「助けて?」


 待ち合わせ中に何があったんだろう?


 そう思って端を探しているとすぐ見つけた。黒いマスクに画像と同じ帽子。話しかけようとしたけど、足が止まった。


「お姉ちゃんさちょっと俺らと遊ばね?」


「ぜってぇ楽しいぜ?」


「なぁなぁいいだろ?」


 チャラ男3人組が星野さんをナンパしてる。当人の星野さんは下を向いて何も喋ってない。周りはそれに気づいているが、見て見ぬふりだ。


 俺が助けないと。


「その子は俺と約束があるんだ」


 4人の視線が一気に俺に来た。こういうのは漫画でしか見たことないけど、頑張らないと。


「あ? んなことどーでもいわ。今はオレらが話してんだ。邪魔すんじゃねぇ」


 ひっ! 本物のチャラ男怖すぎだろ!


「そ、それを言うなら俺の邪魔しないでください」


「チッ。グチグチうるせぇな! イラつかせんじゃねぇぞ」


 3人組が星野さんを離れ俺の前まで来た。舌打ちしたチャラ男の顔の血管が浮き彫りになってる。


 すごい怒ってるじゃん。


「なんですか」


「オメェ生意気な口きくな。怪我したくないなら失せろ」


「あなた達こそ怪我したくなかったらいい加減いなくなってください。一切ナンパが成功してないのにがっつくなんてみっともないですよ」


「うっせぇーな!!」


 怒ったチャラ男が顔めがけて殴りかかってきた!


 慌てず受け流し、手首を掴む。


「諦めてもらえませんか?」


「クソが……。てめぇら行くぞ」


「「う、うっす」」


 怖かったけどなんとかなった。いや空手やってて良かったぁ〜。


「こんなことに巻き込んでごめんね。助けてくれてありがとう」

 

 深く頭を下げる星野さん。

 さっきのチャラ男達のせいですんごい重い空気。初対面なのに最悪だ。


「いやいや頭上げてください。ここを集合場所に指定した俺の責任でもあるので」


「そうは思わないけど……」


「そうなんです。星野さんが魅力的でナンパされるのは仕方ないので自分を責めないでください」


「ふふっ。独特な口説き方だね」


「……こういうの慣れてないですよ」


 自分で言って恥ずかしくなってきた。でも、これで空気が良くなった。


「空手黒帯でパワーはあるけど、女の子には初心なのってギャップ萌え狙ってる?」


「そんな器用じゃないです」


「ふ〜ん」

  

 少し話しただけだけど頭にあった疑念が確信に変わった。““星野さん=夢月ももか””で間違いない。隠しきれてない有名人オーラも感じるし絶対そう。


 なんかそう思うと急に緊張してきたな。


「ちょっと遅くなったけど改めまして……。私の名前は星野凛乃だよ」


「中村春樹です。今日はよろしくお願いします」


「うんっよろしくね!」

 

 周りに見えないよう少しマスクを下げ見せた笑顔。その笑顔はネットで見たどの笑顔よりも可愛かった。


「それじゃ早速行こっ!」


 

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