第2話 罠にかかったのか?

『直接会ってお話してみたい』


 このチャットが送られてきた直後すぐ日程が決まり、プロフィールの写真じゃ見れなかった自撮りが送られてきた。


 黒い帽子を被り全ては見えなかったが。銀色の長髪に、爽やかな水色の瞳。鼻が高くモデル顔負けの小顔。


 俺はそのあまりの可愛さに最初は加工を疑ったが、調べた結果普通にカメラから撮っただけの画像だった。

 

「いやいやいやおかしいだろ」


 相談のため大学で秀人にあった事をありのまま話したら、心配してる顔を向けられた。


「よく考えてみろ。出会い系でマッチングしてDMで盛り上がったその直後に『会いたい』って言われたんだぞ?」


「う、うん」


「そんなの体か金目的か男を弄んでるクソ女に決まってるだろ」


「いやでも、結構チャットで漫画について色々語り合ったりしたよ? その女の子が即行動派だったんじゃない」


 俺が言葉を言うたび、秀人は悲しそうな顔になっている。

 

 たしかに秀人に言われてることはわかる。けど星野さんからは不純なものを一切感じなかった。

 あれは新しい出会いを探してるみたい……だった。


「気が合うような感じしたんだよね。きっと仲良くなれるって」


 と、そんな風に平然を装っているが多分俺は内心、秀人にお墨付きをもらって少しある疑念を晴らしたいんだろう。じゃないとこんなこと言わない。


「その子の自撮りあるけど見る?」


「いいのか?」


 自撮りを見せると顔色が一瞬で変わった。


「めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか! ……でもこれ、AI使って加工してるんじゃ」


「俺もそう思って色々調べたけど、ただ撮って送っただけの画像だってことがわかったんだよ」


「なにそれ。本当に素だったらヤバすぎだろこの可愛さ。モデルとかやってるんじゃないかって疑うレベルだぞ。この人、何やってる人?」


「テレビ関係者だって」


「へぇー。……ん? ちょっと待て。この水色の目とか銀色の長髪とか、元アイドル――夢月ゆめつきももかちゃんに似てるな」


 鋭い目つきになった秀人。俺のスマホをがっつくように見ている。


 そういえば今はモテモテで忘れかけてたけど、秀人ってアイドルオタクだったっけ。


「耳たぶにある小さいホクロの位置まで一緒だ。これはもう似てるなんて言う次元じゃないぞ」


「素朴な疑問なんだけど、夢月ももかって人有名な人なの?」


「お前っ! 有名ってもんじゃないぞ。アイドル時代は世界的な人気があって、アルバムランキングの一桁は全部ももかちゃん達のエクリプスが独占してたんだからな」


「そ、そうなんだ」


 早口で全部聞き取れなかったけど、世界的に人気だったことはわかった。

 にしても、秀人がここまで興奮してるのは久しぶりに見たな。


「エクリプスは3人グループで皆めちゃくちゃ可愛くてな。世界一可愛いアイドルって言われて有名になったってわけだ。音楽サイトで歴代最速で1億再生を超えたり、ワールドツアーのチケットが一分で完売したり、アイドル界の歴史を塗り替えたスゲェグループなんだよ。分かったか?」


「あぁうん。わかった」


 うん。何言ってるかさっぱり分からないけど、エクリプスってアイドルグループはすごいんだな。


「でも、そんなスゲェグループも事務所が潰れてなくなっちまったんよな……。まぁそれを気にエクリプスのメンバーがそれぞれやりたいことをやってるから、ファンとしちゃ複雑な気持ちなんだなこれが」


 普段ニュースは頭に入れないが、そのニュースは記憶に残ってる。

 社員のパワハラや脱税に中抜きなど数々の隠していた内情が内部から告発され、ネット上で長く大炎上。最終的に警察が動き社長や社員達が捕まり、事務所が潰れた。


「って、長くなったけど今はそんなこといいんだ。もう一度よく画像を見せてくれ」


「もちろん」


 秀人に携帯を渡して隅々まで見てもらう。


 もし、本当にこの画像の人物が夢月ももかだったら一体何で出会い系なんてやってるんだ?

 元アイドルなんだから異性と出会う場所なんて、いくらでもあるだろうに。お金は困ってないだろうし、本当に体目当てだったりして。いやそうだとしても、出会い系なんてする必要ないか。


「うーん。オレの目にはももかちゃん本人にしか見えないわ」


 夢月ももかが出会い系アプリをしてるのに納得いってない様子。


「そういやDMで盛り上がったって言ってたけど、どんな内容だったんだ?」


「お互い好きな漫画の話だけど」


「漫画だぁ〜? ももかちゃんは漫画を一切読まないからこれ中の人別人だな。テレビ関係者なんだし、この画像は盗撮だ。うんきっとそうだ」


 自分に言い聞かせている姿を見て俺はそれ以上聞くとこができず、その後は大学について色々二人で話して解散した。


 秀人と話した結果、頭の片隅にあった疑念が大きくなってしまった。

 そのせいで帰った後星野さんとチャットで漫画やアニメの話しをしていても、頭のモヤモヤはなくならず……。


 そうしているうちに時間だけが過ぎていき、星野凛乃さんと直接会う日がやって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る