第1話 チャットで気が合う女の子
『プロフィールに書いてある空手で黒帯っていうの本当?』
『はい本当です。高校生の時になりました』
『へぇーすごい! じゃあさもし急にパンチされてもこてんぱんにできる?』
『相手にもよりますけど。自信はあります』
そんなDMをしたのは3日前。これでマッチングした子からDMが返ってこないのはこれで2回目になる。
別に変なことを言ってるわけじゃないんだけど……。
これ人じゃなくてAIとチャットしてるとかあるのかな?
「いやいやいや。そんなはずないか」
俺は自分のプロフィールに目を移す。
【中村春樹と言います! 今は大学生1年生で女の子との出会いを求めて出会い系を始めました! アニメや漫画が好きです。空手で黒帯をもってたりもします。高校は男子校であまり女の子とのコミュニケーションは慣れていませんが、仲良くしてもらえると嬉しいです!】
改めて見返してみると、これでDMを送ってきてくれるかと言うと……怪しい。俺が女の子だったら、もっと気さくな人に食いつく。でもこれはネットで調べて作ったから間違えてはないはず。
あ、もしかしてプロフィールの自撮りが原因なんじゃね? たしか自撮りは面倒くさくなった結果真顔にしたはず。
うん。これが原因だな。
色んな人の自撮りを参考にしながらキメ顔を撮っていると、スマホに一通の通知が入る。
「おっ!」
出会い系アプリでマッチングしたようだ。自撮りを良い感じのキメ顔に変え、早速来たDMを見る。
『こんにちは! プロフィールから気になってDMしちゃいました( ꈍᴗꈍ)』
マッチングした子は俺より2つ上の20歳の女の子。
【星野凜乃。女20歳です。出会い系に興味があって始めてみました。お手柔らかにお願いします】
プロフィールの紹介文からは名前と年齢くらいしかわからない。普通自撮りもあるはずだが、写真はよくわからないピンクのゆるキャラ。出会い系初心者だけど怪しい匂いがプンプンする。
まあ、怖いけどせっかくマッチングしたんだし返さないと。
『はじめまして。どこらへんが気になりました?』
『早い返事ありがとうございますm(_ _)m そうですね……空手で黒帯って所も気になるんですけど、どんな漫画が好きなんですか?』
漫画の方か。今までそっち方面の話題は出てこなかったな。
『ファンタジーだったりSFだったり色んなジャンルの漫画を読んでます。最近ハマってるのは現代ファンタジーですかね。星野さんも漫画お好きなんですか?』
『大好きで仕事の合間によく読んですよ。でも、現代ファンタジーはあんまり読んだことないかもです。オススメとか聞いてもいいですか?』
『もちろんいいですよ。あまり読んだことない人だったら……』
その後も10分以上漫画の話題で盛り上がった。出会い系をし始めて初めて本心から楽しいと思える時間だった。
そしてそう思うと同時にこの人のこともっと知りたいな、と思い始めていた時。
相手側から思いもよらない提案が送られてきた。
『あの申し訳ないんですけど敬語やめてもいい……かな? 春樹くん――春くんとはもっと仲良くなりひたちから』
誤字がすごい。でも、そんなことより嬉しい提案だ。
『俺も星野さんのことを色々知って仲良くなりたいと思ってたところです』
『春くんも敬語やめてもいいよ?』
『すいません。プロフィールにも書いてあるんですけど、女の子とのコミュニティケーションに慣れてなくてちょっとハードルが高いです』
『そっか。じゃあそのハードルが低くなるくらい仲良くなれたらいいね(✯ᴗ✯)』
返ってきたチャットに思わず口角が上がった。
これまでチャットしてきた人は俺を値踏みするような人だったり、高圧的な人だったりと変な人ばっかだった。気兼ねなく同じ目線でチャットできるのは心地良い。
星野さんってどんな人なんだろう?
『お仕事は何をなされてるんですか?』
少し間が空いてチャットが返ってきた。
『テレビ関係だよ。春くんって普段テレビ見てる?』
『朝のニュース番組を垂れ流しする程度で、他は全く見てないです。だいたいその時はアニメか漫画を見てるので』
『そうなんだ』
短い返答。テレビ関係者に返す言葉を間違えた。嘘でもよく見てると言ってたら、星野さんのことを知るチャンスだったのに。
そう後悔していると、相手からチャットが来た。
『話は変わるけど、大学生活は楽しい? 私高卒だからそういうところよくわからないだんよ(´;ω;`)』
『夢見た大学生活とはかけ離れてますが楽しいですよ。でも、大学生になってから一番楽しいことはこの星野さんとのチャットです』
『もしかして口説いてる?』
『そう思いますか?』
『分かりやすすぎだよ。でもそう言ってくれて嬉しい。私も今楽しいから(≧▽≦)』
返し方が上手い。タメ口で距離を縮めて来たのも踏まえると、すごいやり手だ。俺もこんな風な言葉をすらすら出せるようになったら彼女が出来るんだろうな……。
『直接会ってお話してみたい』
そんなチャットが送られていたことに気づいたのは少し後だった。
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