10


二三度瞬き。


膝に乗せた自分の娘に君が笑いかける。


君に娘がいるかなんて僕は知らない。


その子がねだるから

胸ポケットの塊を君に渡す。


これはなあに。これはパパの小指の骨だよ。

昔このおじちゃんにあげたんだ、

まだ持ってるとは思わなかった。


小さな手のひらから長い指で摘まみ上げる。


苦笑しながら僕の元へ君が帰る。


その先は言わないでくれ、と願っても無駄。


君は必ず告げる。


だってこれ、ただの軽石だもんね。


そうして愛は一度死ぬ。


所構わず泣き喚いて現実に縋れたら

どれだけ楽だろう。


小指をくれると言ったいつかの君を

胸ポケットにしまい込んで愛とする。


不毛な執着を誰に懺悔すれば

許してもらえるだろうか。


答えは期待しないから、

せめて親切なふりして

全部の僕を奪い去ってくれ。


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