9
車掌の滑らかな口調で降車駅を告げられる。
躊躇なく一歩踏み出して振り返りもしない。
車内に置き去りにした君の田舎が
背後でゆっくり加速する。
さようなら、見知らぬ一日。
別れを告げたところで
肩の荷が下りるでもない。
訳知り顔の憂鬱が
僕に歩調を合わせて隣を歩く。
氷水が胃にゆっくり流れ込むような悪寒。
君の全てを振り切って
今すぐ地面でのたうち回ってやりたい。
嫌だと叫んで駄々をこねてやりたい。
どれも実行する勇気は無いけれど。
駄目だ、寒い。寒いから駄目だ。
多分小腹も空いている。
立ち止まってファミレスのガラスを覗く。
右手を振って君が僕を呼び込む。
君の小指は今もまだ少し短い。
不本意ながら少し安心して扉をくぐる。
うんともすんともお互い言わず、
たらこパスタに
スープバーを付けたのを頼んだ。
美味しいポタージュが結局のところ
何味か知らないけれど、
君の解像度に比べたら極彩色の現実だろう。
最近はどうとか、最近じゃどうとか
現実にある会話をしてみても
同期ずれを起こしているみたいに
返事が遅れる。
現実の君に君の面影を探して毎度絶望する。
失ったものこそ美しいのを知るなら
この瞬間の虚ろを甘んじて愛すべきだろう。
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