198話 自分の心を掘り返しに

《お詫びとお知らせ》

・11/3が投稿日だと忘れ爆睡でございます。大変失礼しました!!!泣

・諸事情を鑑みて、本日は3話分更新致します。(地味な回が続いてしまいますが、端折はしょれませんでしたゆえ……)


* * *





 それからは六人で雑談をした。少しずつ各々の緊張が解けていき、結構話が弾んだような気がする。


 気付けば昼食の時間。ミロナさんから柔らかく間延びした声掛けがあった。


「皆さん、そろそろお昼ご飯を運んでもいいかなぁ?」

「お願いしまーす」


 口々に返事をすると、食卓の上が料理で埋め尽くされた。いつもに増して豪華で綺麗な気がする。



 歓声を上げる俺達に、ミロナさんはむちっとした腕を見せてイタズラっぽく笑った。


「貴族のご友人が来るって聞いたから、腕によりをかけちゃった。――アピラさん、ヘルパー兼カウンセラーのミロナです。限られた時間しか居ないけど、良ければ気軽にお話しましょ」


「是非! このご馳走からお心遣いが伝わりますわ」


 そしてミロナさんは、俺に声を掛ける。


「じゃあルークさん、十三時に一階で」


「あっ、はい。ありがとうございます」


「では私も休憩を頂きまーす」



 いただきますの挨拶の後、各々食事を始めながら、ケインが意外そうに尋ねてきた。


「ねえルーク、もしかして、この後カウンセリング?」


「……うん。昼食後、一時間くらい留守にするから、何かあれば頼むよ」


「了解。人生初でしょ、色々話せるといいね」


「ハハ……話せるかな? 俺も何を話したいのかよく分かんないし。でも自分だけで悩み続けるよりはいいかもって……」


 停滞を抜け出してやると強く決心しつつ、皆には言ってなかった。こうして口に出すと照れ臭く、弱気になる。


 ケインは、そんな俺を妙に嬉しそうに応援してくれた。


「うんうん、良いと思う! 始まってみれば意外と話せたりするよ。何回も継続して少しずつ変わってくるものだしさ、もし話せなくても大丈夫」


「そっか。有益にするべきって気負ってたかも知れない。そういうもんか」


「そうそう。ふふ、なんかルークが前向きに闘病してるとこ見れて嬉しいな!」


「……あはは、ありがとう。ほんと優しいな」


 ウィルルもまた、小さな口元にドレッシングを付けたまま微笑みかけてくれた。


「ミロナさんね、すっごく聞き上手で、話を綺麗にまとめてくれるから、頭の中すっきりするんだよ。良いお話、できると良いね」


「そうなるといいなあ。ありがとう」


 俺の努力を喜び応援してくれる人がいる。幸せだ。それだけでまた頑張れる気がする。



 カルミアさんが彼女らに尋ねた。


「ねえ、カウンセリングって、効果どう? 俺も行った事ないけど、気にはなっててさ」


 答えたのはケイン。


「私は手応えを感じてるよ。でも、話を聞いて欲しい、意見が欲しい、自分を変えたい、みたいな動機がなければ行く必要はないと思うな」


「そうなの? 色んな人にお勧めされるし、とりあえず行けばいいのかなと思ってたけど」


「うーん……気軽に受けてみるのも大事だよ。でも、カルさんにお勧めするのはちょっと怖い……」


「え、怖い?」


「私だけかなぁ? 心の防御のために封印してたヤバい記憶を解放されたりするんだよ。必要だと分かってても本当にキツい。……倒れそうなくらい。だから、悩みが大きい人ほど、自分の意思で通って欲しいなって思う」


 カルミアさんの事情を全ては知らないケインだが、その重さは案じているようだ。そして当の彼の苦笑は、蘇る苦しみと向き合う準備が出来ていない事を示していた。


「……そっかぁ、教えてくれてありがと。俺は一旦遠慮しとく事にする。延々と先延ばしにしそう。はは」


 カルミアさんは誤魔化すように俺に絡んだ。


「これからルークは心をザクザク掘り返して貰うって事ね。しんどそー! 頑張っておいで」


「あはは! 嫌な効果音。今の話聞いてたらビビるけどさ、頑張ってはみるよ」



 この時、ボソッと隣のログマが溢した言葉が引っ掛かった。


「――――俺達には意地でも喋らねえのにな」


 彼はこれを俺に聞かせる気が無さそうだったから、聞こえなかった事にした。



 ……俺だって、皆に話したいんだ。でも本当に話すべきなのか、何をどこまで話せばいいのか、分からないんだよ。皆に迷惑をかけて話を聞かせる程の意味や価値があるとも思えないし。そんな事を考えているうちに話せなくなって、何度も機会を逃しているんだ……。


 つーかログマだって、絶対色々抱えてるよな? 皆に話してないよな? 見せてくれる感情すらほぼ怒りだけのくせに、人の事言えんのかよ。そもそも、嫌いな俺の話なんて聞く気ないだろ。



 ――それら全てを伝えられずに、無言でオムレツを口に押し込んだ。






 一階のカウンセリングルームで、ミロナさんと向き合って座る。緊張か不安か、変な動悸がした。



 ミロナさんはふわふわなアッシュブラウンの髪をまとめ直したり、バインダーに紙をセットしたりとゆるゆる動きながら、気さくに話し出した。


「こうしてゆっくり話す事なかったですねえ」


「なんか入社以来ずっとバタバタしてて。頼り切りですみません」


「いえいえー、仕事だから。ルークさんが来てもう……八ヶ月? 最近、時の流れを早く感じるようになって嫌だわぁ」


「俺は逆に、まだ八ヶ月かぁって驚いてます。色々ありすぎて。あはは」


「そっかー! そうですよね。特に先月! 私の契約日が激減して驚いてたら、危険なお仕事中だったって報道を見てまたびっくり! お疲れ様でした」


「ハハ……お仕事って言うか。俺達もびっくりですよ。ありがとうございます」


 ミロナさんは俺の十歳上。既婚者で、二人のお子さんを育てているらしい。彼女のさっぱりとした優しい語り口はなんだか安心する。空気作りとして意図的にやってる面もあるのかな。



 気付けばカウンセリングが始まっていた。


「色々あると思うけど、全体的に、会社での生活はどう? 負担に感じてるかな?」


「いいえ。仕事の予定に体調不良が重なった時だけはキツいですけど、あまり無理はしてないと思います。休みたいと素直に言い合える同僚の存在はありがたいですよ」


「ふぅん、良かった。同僚に対するストレスは感じない?」


 ふわふわと浮かんだ各々への不満は、全て親愛に上書きされる。ふふっと笑った。


「感じる時もありますよ。でもお互い様かなと。俺は、それがあってこそ、今の親密さがあると思っています。だから問題ないです」


「……そう」


 ミロナさんの反応がかんばしくなかったような。まずい事を言ったとは思えないのだが……。なんて考えていたら、見透かされたようだ。


「この場では、自分の話の是非を考えないで下さいね」


「あっ、すみません」


「謝る事もないんだよぉ。むしろヤバい思考や悪い感情なんか、全部話す勢いでいきましょ」


「えっ! 俺、そこまでは……」


「まあまあ、無理のないところからね! でも口に出してくれると、その心理状態に至った背景を整理して、日常生活に影響を与えない方法を話し合えます。素直な貴方を『理解』して『対処』できるの。そのためのカウンセリングですよ。だから正直に、ね?」



 自分の理解。俺がカウンセリングを受けたいと思った理由そのものだ。


 病院での診察が症状や薬の相談なら、カウンセリングは自分をテーマにした議論とでも言おうか。しかし、主役の俺が正直に話してこそ有益な結論が出されるという点は、どちらも同じなんだろう。


「……頑張ります!」

「あはは、まだ固いかなぁ!」








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