127話 戦士ランクと社会勉強



 スクラーロさんはあんな乱暴な挑み方をして来たが、基本的には面倒見がいい人なのだろう。無知すぎる俺にも分かるよう、丁寧に説明してくれた。



「……都民軍事依頼所で定められる団体ランクは十等級、戦士ランクは二十等級ある。大体はその半分までしか上がれないから、それ以上になると一目置かれる。これは実績と推薦投書数で決まる。見たことないんだろうから、今度、依頼所で聞いてみるといい。ランクだけなら誰のでも見ることが出来るぞ」


「あっ、はい……」


「因みに今の俺の戦士ランクは五。ちょっと前に見た段階で、ルークさんは……六? 七? とにかく俺より高かった。一度上がったランクは滅多な事じゃ下がらない。実績だけでも地道には上がっていくが、そこに推薦投書が乗ることで伸び方がかなり違ってくる」


「そうなんですね」



 スクラーロさん、三十歳って言ったよな。それでランクが五なのか。彼の戦士歴は知らないが、半年分の実績しかない俺が彼を追い抜いてるのは不思議な話だ。結構な数の投書を何も知らないうちに頂いていたのだろう……申し訳ないな。



「推薦状は誰でも投書できる。一ヶ月に何枚まで、同じ戦士に複数回の投書は数年おきで、みたいな緩い制限はあるが。自分より高いランクの戦士からの推薦状は、一般人や同等以下の戦士から貰えるそれの数倍、評価アップに繋がる」


「ふむ……」


 話を聞いている限り、スクラーロさんは『格上戦士からの推薦状』を欲しがっていたのだな。異様な早さでランクを上げた俺の実力を虚構と疑い、こいつになら勝てると思われて絡まれたんだ。



 ……俺のランクの高さについては想像だが、最初の盗賊団の仕事がまず大きいだろう。目立つ場所で戦闘して、写真付きで報道までされた。身も蓋もない会社名のせいで病気持ちだと分かってしまうことも併せて、感謝から面白半分まで、色んな投書を集めたんだろうな。


 そして次に、風竜の仕事だ。相当大きな実績として数えられている筈。その上、高ランク戦士であろうレヴォリオが俺に投書したのではないか。さっき野次馬がスパークルのエースが認めたとか零してたから。――あいつ……俺は強者の自覚を持ち正当に評価されるべき、と何故か意地になってるんだよな。今度会った時、お前の口から俺の話を出すなと言っておかなきゃ……。



 スクラーロさんは真剣な顔で続けた。


「いいか、今回の情報料に関しての話だ。団体所属戦士と違って、傭兵が個人で受けられる美味しい仕事は奪い合いだ。受託希望が重なれば、ランクが高い人が優先される。言ってしまえば、ランクさえ上がれば十万なんてすぐに元が取れるんだ。推薦状を書くってのはそういう――」


「大事なのは分かりました。でも、推薦状を書くことによる俺のデメリットは無いですね? 推薦した分俺のランクが下がるのかと思ったけど、そうでもないみたいだし」


「いや、それはさ……」


 スクラーロさんは太い腕を組み、深いため息をついた。人生の、戦士としての先輩といった表情だった。



「……ルークさんだって、いつか転職したり、傭兵として独立したり、軍事系の個人業を営んだりすることがあるかもしれないだろう。そう言う時、所属団体に左右されない個人評価は大事だ。極端な話、この帝都ゼフキでは、戦士人生を左右する。将来、自分の人生の邪魔になる可能性がある競争相手を、あまり軽々しく応援しない方がいいんじゃねえか」



 理解した。俺が武技の指導者になるという話の時に、カルミアさんが『現役で実績を積む』と言っていたが、この戦士ランクの話をしていたんだな。スクラーロさんの言う通り、大事なことだ。


 大きな地方都市などは知らないが、少なくとも故郷のロハ市にはなかった制度だ。評価を可視化する制度がなくても、噂や評判、紹介で仕事が貰える文化になっていた。そして、仕事に対して人が足りないから、奪い合うこともなかった。


 そんな田舎から出てきた無知な俺だが、イルネスカドルが優良事業者であるおかげか、仕事を請けられなくて困ったことがない。幸運な話だが、それゆえに今まで知る機会がなかったのだ。その上、ゼフキの戦士の間ではあまりに常識すぎる事だから、誰も改めて教えようと思わなかったんだろうな。



 スクラーロさんには随分助けられたものだ。それこそ彼にはメリットのない、親切心しか見えない情報と忠言に、笑顔が溢れる。


「そうですね。価値が分かりました。沢山教えてくれてありがとうございます」


「そ、そうか。分かったなら、何よりだ……。じゃあ、金を――」


「今くれた戦士ランク? の情報含めて推薦状一枚ってことで、どうでしょう?」


「……お前」


「俺、ゼフキに来て半年以上経つのに、今日貴方から初めて聞くことが沢山ありました。絡まれたのは嫌だったけど、感謝してます。試合して手強かったのも事実です。これも縁ですし、推薦させて下さいよ」


 スクラーロさんは心底嬉しそうな笑みを浮かべ、再び手を差し出してきた。


「嘘みたいな世間知らずの、超絶お人好しだな! その隙、付け入らせてもらうからな!」


「ふっ、あはは! どうぞどうぞ」


「言い返すところだろ! 調子狂うっての! ははは!」



 握手に応じるとぶんぶん上下に振られた。歳上の大男の無邪気な喜びが面白くて、声を上げて笑った。



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