第52話
コーリンはコンラッドが腕を怪我していることに気付いた。
「大変。どうしたんですか?」
「ん? これ? べつに大したことないよ」
「ダメですよ。怪我は早く治さないとどうなるか分かりませんから。ほら。こっちに来てください」
コーリンはコンラッドを保健室に連れて行った。
誰もいない保健室でコーリンはコンラッドの腕に薬草で作った薬を塗って包帯を巻く。
そして怪我が早く治るよう包帯に回復魔術を施した。
「はい。これで大丈夫です」
「どうも。手際がいいな。いつもやってるのか?」
「はい。みんな元気ですから。組み手の時とか大変ですよ」
「いいことだ」
コンラッドは優しく笑った。
するとコーリンはコンラッドの手を撫でた。
「懐かしいですね。前もこうやって治療したの覚えてますか?」
「覚えてるよ。あいつら遠慮なしに来るからな。特にアレンとベルモンドには手を焼いた」
「強かったですからね」
「アレンはそうでもなかったけど、あいつは絶対に諦めないからな。そういう方が厄介なんだよ。だから強くなったんだろうけど」
「今じゃ英雄ですからね。昔はクラスメイトだったのに。先生はなんでわたしを選んでくれなかったんですか?」
「え? それはまあ……」
「リリーがいたから……ですよね?」
コンラッドは少し困りながら肯定した。
「ああ……。あの子もまた天才だった。回復、防御、撹乱。白魔術でできないことはなかったからな」
「ですね。でも本当はわたしも一緒にいって先生を治したかったなあ」
コーリンは上目遣いで小首を傾げ、コンラッドを見つめた。
「わたし、結構先生のこと好きだったんですよ?」
「え?」
コンラッドは目を丸くした。
「あ、ああ……。先生としてって意味だよな。ありがとう……」
「……でもアーシュラに取られちゃったからなあ」
「取られたって……」
「親にも結婚しろって言われるし、どこかにいい人いればいいのに」
「ア、アレンとかいいんじゃないか? あいつ真面目だし」
「わたし、年上が好きなんですよ。先生みたいに強くて頼れる人がいいんです」
コーリンに見つめられ、コンラッドは苦笑する。
「コーリンならすぐに見つかるさ。って、え!?」
コーリンはコンラッドの指先に傷を見つけ、それを舐めた。
「な、なにしてるんだ?」
「なにって、治療です」
コーリンはコンラッドの人差し指をペロペロと舐め続ける。
さすがにコンラッドも顔を赤くした。
「いや、これはさすがに」
抵抗しようと立ち上がったタイミングでコンラッドはコーリンに押され、奥のベッドに押し倒された。
コンラッドの目の前でコーリンの大きな胸が揺れる。
コンラッドはゴクリとつばを飲み込んだ。
だがすぐにアーシュラのことを思い出した。
「ちょっと待て! 俺には妻と子供が!」
「でもここにはいないですし、バレないですよね。久しぶりに会った生徒と先生が流れでそういうことになるのは仕方ないですし」
コーリンは恍惚な表情を浮かべてコンラッドにキスをしようとした。
唇と唇が触れる。
その微かに前のことだった。
「なにをしてる?」
コーリンの背後ではニコラが腰に手をあて、冷たい目をして立っていた。
ニコラはすぐさまコーリンの首根っこを捕まえ、引っ張った。
コーリンは脂汗をかきながらニコリと笑った。
「あら。ニコラ」
「あら。ニコラ。じゃない。まったくお前は」
「な、なんでここにいるの?」
「気になってついて来たんだ。アーシュラにも頼まれている。もし誰かが先生を誘惑しようとしたら阻止しろとな」
「う……」
ニコラはコーリンをぽいっと投げるとコンラッドの方を向いて、冷たく見つめた。
「先生」
「……はい」
「先生なら抵抗しようと思えばできましたよね?」
「え? いや……、それは……その……。あれだ。怪我させないように配慮してたら、その……ちょっと……対処が遅れて……」
「へえ。対処が」
「うん……。対処が……。疲れてたし……」
みっともなく言い訳するコンラッドにニコラは小さく嘆息した。
「そうですか。今回は見逃してあげますけど、次はないですよ。すぐさまアーシュラに伝えます」
「それだけはやめてください。殺されてしまいます」
コンラッドは真面目な顔で懇願した。
ニコラは呆れた。
「ならもう少ししっかりしてください」
「はい……。すいません……」
ニコラはコーリンを立たせるとお尻を蹴った。
「お前も変なまねを起こすな。アーシュラに殺されるぞ」
「はーい……」
コーリンは涙目で保健室から出て行った。
コンラッドがホッとするとニコラが少し恥ずかしそうに言った。
「先生。その……発散がしたいならまた私と組み手でもしてください。あの時よりは強くなってますから」
「え? あ、うん……。そのうちな……」
「約束ですよ。遠慮なしで激しくしてもいいですから」
コーリンははにかむと部屋から出て行った。
一人残されたコンラッドはベッドに腰をかけたまま大きなため息をついた。
「俺……生きて帰れるかな…………」
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