第30話
「たしかこっちだったよな」
コンラッドは大通りを目指した。そこまで出れば、後は銀行の方に歩いて行くだけでホテルに着く。
夜道は少し冷えたが、それが逆に火照った体を良い具合に冷やしてくれた。
街外れだと道は荒れ、街灯は四つに一つは点滅していた。周囲の家も中心部に比べると古くて小さい。
まるで街にしがみついているようだとコンラッドは思った。
「そこまでして都会に住みたいかねぇ……」
無理をしてまで王都に住もうという気持ちは田舎育ちのコンラッドには分からなかった。
妻のアーシュラも子供が大きくなるまでは王都に住みたくないと言っている。
その原因が治安の悪さだ。
十年前でも良くはなかったが、今は悪いと言い切れるレベルだった。
今もほとんどすれ違う者はいない。いたとしても男だけで、女子供はいなかった。
それほど昼はともかく夜は危険だということだ。
そんなことを肌で感じ取りながら、コンラッドは誰もいない路地で呟いた。
「……四人か」
コンラッドは足を止めた。
周囲に人影はなく、街灯も少ないため薄暗い。
コンラッドがなにが起きようと誰も助けに来てくれないような路地に入ったのは理由があった。
ポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと振り返る。
「いるんだろ? 出てこいよ」
だが返事はない。
コンラッドは嘆息した。
「そこの角に二人。そっちの路地に一人。あとは」
コンラッドは顔を上げた。
「そっちの屋根に一人」
そう言ったのと同時にマントを被った男がコンラッド目がけて飛び降りてきた。その手にはナイフが握られている。
コンラッドは降りてきた男を躱した。男は着地と同時にナイフを振るうが、コンラッドはそれを払い飛ばしてしまう。
飛んでいったナイフが助けに来ようと出てきた男の太ももに刺さり、悲鳴が上がる。
「痛えぇぇぇッ!」
「あ。ごめん。つい」
コンラッドは申し訳なさそうにしながら降りてきた男が放った拳を避けた。そしてがら空きとなった胴体にマナを纏った手のひらを押し込む。
「ぐはっ!」
男の体は浮き上がり、後ろに十メートルほど吹っ飛んだ。
それが角で隠れていた男の一人にぶつかると、ものの数秒で動ける者は一人だけとなる。
コンラッドは残った男に言った。
「もう分かっただろ? 襲うなら他を当たってくれ。俺は明日が早いんだ」
「……そうはいかない」
残った一人の男はそう言うと前に出てきた。
フードを取るとその顔が街灯に照らされる。
長い耳に青い目、整った顔立ち。
男はエルフだった。
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