第29話

 それから話題は変わり、各々昔話に花を咲かせた。


 ワインのボトルが七本ほど空になったあたりでお開きの時間となった。


 モーリスは顔を赤くしながら上機嫌で息子に言った。


「いやあ、今日は楽しかった。カーティス。この英雄殿を送ってあげなさい」


「はい」


 だがコンラッドは赤ら顔でかぶりを振った。


「いやいいよ。お前は明日も仕事だろ? 酔い覚ましに歩いて帰るよ。道は覚えてるから大丈夫だ」


「ですけどこの辺りは危険ですよ? この前も強盗があったばかりですし」


「気にするな。俺を倒せる奴がいたら次はそいつを連れてくよ」


 コンラッドは機嫌良さそうにへらっと笑う。


 心配そうなカーティスだったが、そこに客がやって来て一変する。


「カーティス警部。夜分遅くにすいません。少しお話が」


「……分かった。奥で話そう」


 カーティスはコンラッドに確認した。


「本当に一人で大丈夫なんですね?」


「ああ。問題ない。おやすみ。今日は楽しかったよ」


「……おやすみなさい」


 コンラッドはカーティスに見送られて屋敷を出た。


 ドアが閉まる寸前、コンラッドはその卓越した聴力でカーティスの部下の話を聞いていた。


「例の件どうしましょうか? またカタコンベに」


「それはこちらで調整する」


 彼らが言っている意味がよく分からなかったコンラッドはポケットに手を突っ込み、塀の外まで続く道をゆっくりと歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る