第17話
翌日。
朝食をもぐもぐ食べるコンラッドの正面でピエールは喜んでいた。
「本当に受けてもらえるんですか?」
「まだ受けるとは言ってない。取りあえず森の様子を見てくるとだけ言ったんだ。あんまり時間がかかりそうなら王様に怒られるからな。ほら、一応呼ばれてる身だし」
王の名前が出てピエールは揉み手をする。
「もちろん王が第一です。ですがご心配しないでください。昨日部下にあいつらを追わせた結果、どこに潜んでいるかは分かっています」
「ほう。仕事が早いね。聞いたら王も喜ぶだろう」
コンラッドは無関心そうに朝食を食べまくる中、ピエールはご満悦だ。
食べ終わるとコンラッドは着の身着のままで森へと向かった。
ピエールの部下からエリン達が潜んでいる大体の場所は教えられていたが、そうでなくともコンラッドには追う術がある。
「マナはこっちだな」
マナの揺らぎや痕跡。
その他何十もある情報から経験でエリン達のあとを追う。
森はどんどん深くなるが、コンラッドは気にしていなかった。魔獣達も危険を感じて襲ってこない。
しばらく歩くと開けた場所に出た。
泉から水が湧き出た静かな空間だ。
そこでコンラッドは足を止めた。
「大丈夫。話をしに来ただけだ」
そう言った瞬間、背後から弓矢が飛んできた。
コンラッドはそれを見ないでつかみ取り、苦笑して続ける。
「だから不意打ちしようなんてことはやめてくれ。まあ、それだけ殺気が漏れてれば不意打ちになってないけど」
コンラッドは余裕を持って振り返り、上を見上げた。
そこには木の上でエリンが弓を構えている。
バレたエリンはムッとした。
「去れ! 人間め!」
「嫌われたもんだな。若者に嫌われるとおじさんはちょっと傷つくんだ。言われなくても出てくからちょっと話をさせてくれ。首が痛いから降りて来てくれないか?」
「人間の指図は受けない!」
エリンは更に弓を引き絞った。
「まあそう言わずに。ほら。キャンディーもあるぞ。屋敷から出る前にこっそり盗ってきたんだ。いちご味とぶどう味だ。どっちがいい?」
コンラッドはキャンディーを取り出して見せるがエリンの警戒が解けることはない。
コンラッドが困っていると木の陰から大きな人影が現れた。
それは獅子の亜人、バンガードだった。
「話くらい聞いてやろう。こいつは砦の連中と違い、そう悪い人間ではない」
「話が早くて助かるよ。ええと、でかにゃんこ」
「バンガードだ」
「俺はコンラッド。通りすがりのおっさんだ」
そう言われ、バンガードは苦笑した。
「それで? 話とはなんだ?」
コンラッドは腰に手を当てて少し言いづらそうに俯いてから顔を上げて答えた。
「……それがだな。端的に言うと、この森を諦めてくれないか?」
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