執事の忘れ物


 貴族である私の世話を担当している執事はとても優秀だ。

 テキパキとしていて気が利くし、加えて人柄も素晴らしい。

 この度、働きを評価して”執事長”に任命することにした。


 彼は私の執事としては引退となり、今後は執事全体の管理を任されることになる。


 彼には昇格したあかつきに新しい部屋も用意した。


「部屋まで用意していただいてなんとお礼を申し上げれば…」

「この部屋よりは広いしベッドも大きいはずだ」


「今まで本当によくしていただいて…感謝しきれません」

「君に世話されなくなるのはやはり寂しい部分があるがね」

「直接お仕えする機会はなくなりますが、心では常に貴方様にお仕えいたしております」

「はは、君は最後まで主に従順で素晴らしいな。まさに執事のかがみだ」


 彼が去っていったあと感慨深く部屋を見渡すと、ベッドの下に何かがあるのが見えた。

 手を伸ばすとなにやら古びたノートが出てきた。

「ふむふむ、彼の日記かな?」

 私は一瞬見るのを躊躇したが、私と彼の間柄なら少しぐらい見てもいいだろうと思い、静かにノートをめくった。


1ページ目…

”今日も旦那様は素晴らしかった。物腰の柔らかい人柄、あの美しい瞳につややかな肌…”


2ページ目

”今日は旦那様のことを考えて夜も眠れない…。この胸に秘めた想いは墓までもっていくべきなのか否か…ああ神よ、自分はどうすべきでしょうか”




私は静かにノートを閉じてベッドの下にそっと戻した。






ー完ー

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