第24話 ちょっとだけ重い真凛の本音。


「映画、めちゃくちゃ良かったね! 特に最後のシーン!」


「わかる。思わず泣いちゃった」


 映画を見終った俺たちは近くのカフェに移動し、お互いの感想を語り合う。


 真凛が選んだ映画は、小説が原作になっているラブストーリーだった。配役も実力派で揃えられており、気づけば俺はすっかりその魅力にハマってしまっていた。


 隣に座る真凛をちらりと見る瞬間もあったけど、彼女も真剣にスクリーンを見ていたあたり俺と同じ感想を持ったことだろう。


「あの二人の関係、すごく良かったよね。主人公がヒロインに釣り合わないんじゃないかなって悩むところも、すごく共感できたというか……」


 言ってからハッとする。今まさに悩んでいることがテーマになっていたから、つい今の俺の気持ちをこぼしてしまった。


「……もしかして、律もそんなこと思ってるの?」


「い、いや、そういうわけじゃないけど」


 図星を突かれた俺は、誤魔化すようにコーヒーを一口。こんなカッコ悪い気持ちを真凛に対して持っていることは、できれば知られたくない。もうとっくにお見通しの可能性も高いけど。


「ふぅん。もしそうなら、それは勘違いだからね」


「え……?」


「だって、律はいつでも私を助けてくれるし。律は忘れてるかもしれないけど、ちょっと前に体調が悪かった時に助けてくれたじゃん。あの時から、律は私のヒーローだよ」


 もしかして、あの時のことだろうか。真凛が日直の仕事をしている時に、しんどそうにしていたあの……。


「思い出してくれた? 律にとってはささいな、それこそいつも当然のようにやってることだったかもしれないけどさ」


 そこで一度言葉を切り、俺のことを見つめる真凛。その表情はいつになく真剣で、思わず俺も背筋を伸ばしてしまう。


「話したこともない人を助けられるって、なかなかできることじゃないよ。今日もすぐに迷子を見つけてたし、私のことも助けてくれたし。だから……」


 俺は黙って真凛の言葉の続きを待つ。


「ええと、だから律はもっと自信を持ってもいいと思う。……私は律のそんなところが好きだから、さ」


 そう言って、照れたように笑う真凛。


 まさかそんなに素直な気持ちをぶつけられるとは……。


 「好き」と言う言葉が俺の頭の中をリフレインする。それは友達として? それとも……。


「俺も……真凛のことは好きだよ」


「そ、そうなんだ? ……それって、どういう意味での好き?」


「ええと……それはもう色んな意味で」


 つい気恥ずかしくなってしまって、俺は言葉を濁してしまう。


「なにそれ。私は本気なのになー」


 拗ねたような口調で言いながら、真凛がコーヒーをかき混ぜている。


 本気……か。真凛が俺のことを好きだと言ってくれるのはすごく嬉しい。でも、どうしても俺からの気持ちを伝える勇気が出ない。


 真凛に恩を返せたその時には、必ず伝えよう。

 俺の嘘偽りない、本当の気持ちを。


◇◇◇


「……ふぅ」


 家に帰った私は、自室のベッドに寝転がりながら最近の日々ことを思い返す。


 今日は本当に楽しい一日だった。律とずっと一緒にいれたこともそうだし、なによりその……デ、デートもできたし?


 そう、お泊まり会からのお出かけは、まさに私が思い描く理想のデートだった。本当に一緒に住んでいるような、そんな錯覚さえ覚えた。


 将来のことは分からないけど、これからずっと律と一緒にいれたら……なんて、そんならしくないことまで考えてしまっている。


 一緒の大学に行って、一緒に暮らして、一緒の授業に出て、そして一緒に家に帰る……。そんな未来を想像しただけで心が温かくなるのは、どうしてだろう。


 いや、理由は分かりきっている。私が、律のことを好きだから。


 ……いや、好きすぎるから。


 もしかして、私ってちょっと重いのかもしれない。今更だけど、距離の詰め方とかも強引だったし。


 話すようになった日にいきなり家に行って、お母さんと仲良くなって……。冷静に考えると、その時から好き好きアピールをめちゃくちゃしていたような気がする。


 でも、それで良かったんだろう。だって、律は鈍感だし。あれくらいやらないと、好きになってもらえなかったよね。


「ふふ……」


 スマホを取り出し、今日の写真を見る。


 カフェのケーキの前で、ぎこちない笑みを浮かべる律。困ったように笑う姿さえも、私の胸を高鳴らせる。


 だからこそ、私も怖い。律に嫌われたら、と思うと胸が苦しくなる。


 いつだって平静を装って、本当は私の方がドキドキしてるんだよ? そんな私の気持ちも知らないで、律は私に優しくしてくれる。


 ──そして、また好きになるんだ。


 男の人に絡まれた時も、本当に怖かった。周りの人たちの無関心そうな目も、男の人たちの下心に満ちた目も。


 でも、いつだって律が助けてくれるから、私は安心して私らしくいられる。嘘偽りない私を、律は認めてくれるから。


 今日見た映画のヒーローよりも、私は律がいい。


 そうやって、ずっと隣にいられれば、私は──。

 



──

ちょ、ちょっとだけ重い真凛!


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