第13話 クラスのアイドル姫乃さん。
そんなやりとりがあって週明けの月曜日。
午前中の退屈な授業を終え、昼休みになり、俺はいつものように後ろの席の鳴海さんと花梨ちゃんについて話していた……んだけど。
「おっすおっす〜! 私も一緒にいい??」
なんとそこにノリノリの姫乃さんがやってきたのだ。
さすがクラスのアイドルというだけあって、物怖じしないというかなんというか。周りは姫乃さんの突然の行動にザワザワとしている。
「おい、姫乃さんが相良と!?」「マジか? なんか共通点あったか?」「いや、しらねぇ」「……まぁ相良なら大丈夫か」「そうだな」
……クラスメイトから謎の信頼を感じる。なにが大丈夫なのかは分からないけど。
「小春……? 急にどうしたの?」
「どうしたのって、真凛と相良くんと話してみたいだけだよ? こないだちゃんと話せなかったしさ」
確かにあの時は全然喋れなかったな。時間がなかったのもあるけど、鳴海さんの様子もおかしかったし。
「私はもちろんいいけど……相良は?」
ちら、とこちらを伺う鳴海さん。
「もちろん大丈夫だよ。俺も姫乃さんとちゃんと話してみたかったし」
そう答えると、なぜか鳴海さんはジト目になってしまう。姫乃さんはそれを見て可愛らしく首を傾げ、俺たち二人を交互に見る。
どうやら鳴海さんは俺と姫乃さんが仲良くなることが気になるらしい。確かに俺はお邪魔虫かもしれないけど、コスプレのことを直接聞きたいし……。ちょっとだけ我慢してください鳴海さん。
「よかったぁ。ありがとう相良くん! それじゃお邪魔しま〜す」
隣の席の椅子を持ってきて座る姫乃さん。教室の前方で隣の席の高橋くんが「うおおお! 姫乃さんがおれのイスに!!」と喜んでいるのが見える。
「ねね、二人は花梨ちゃんリスナーなんだよね?」
姫乃さんが身を乗り出す。楽しくて仕方ないといった様子だ。
「うん。それで鳴海さんと話すようになったんだ」
「へぇ……。ちょっと真凛、水臭いじゃん! 私にも教えてくれたらよかったのに〜」
「……ごめん。まさか小春も花梨ちゃんリスナーだとは思わなかった」
「まぁオタクっぽいところはあんまり出さないようにしてたからねぇ。というか真凛の方が意外だよ? そういうことに全然興味ないと思ってたっていうか」
それは確かに。まだ姫乃さんがオタクだったという方が納得感があるというか。最近はアニメも市民権を得てるし、陽キャ? の姫乃さんがそういうのが好きなのはまだ分かる気がする。
「いや、インスタにあげてるじゃんか。……って小春はやってないんだっけ」
「……だって良くわかんないし。こう見えて私、機械音痴なんだよねぇ」
それは機械音痴とは関係ない気もするけど……。というか、
「コスプレしてるのにインスタはやってないの?」
「うん。コスプレ仲間に写真撮ってもらってあげてもらってるって感じかな」
へぇ。なかなか珍しいスタイルだ。
「ああいうイベントは初めて出たんだけど、なんかネットでバズってた? みたいで、大トリを任せてもらえたんだよね」
「……確かに、姫乃さんのコスプレならバズるに決まってるか。あんなに可愛いコスプレ初めて見たかも。完成度も完璧だったし」
「え、ホント!? 可愛かった? わ〜、嬉しいな〜! ありがと、相良くん!」
正直な感想を伝えると、姫乃さんがおれの手をに握ってお礼を言ってくれる。
……鳴海さんと同じで距離が近いな?
「――いでっ!?」
「え、どうしたの相良くん?」
そんなことをぼんやり考えていると、足元に痛みが走る。
「……鳴海さん?」
どうやら鳴海さんが俺の足を蹴飛ばしたらしい。そんなに強くはなかったけど、突然だったから思わず大袈裟に痛がってしまった。
「……ふん」
鳴海さんはそっぽを向いているけど、間違いなく犯人は彼女だ。
「ん? なになに、二人して見つめあって。もしかして私、忘れられてる?」
姫乃さんが俺たちを交互に見る。
「い、いや、なんでもないよ。ちょっと足をぶつけただけ。それより姫乃さん、もっと詳しくコスプレについて聞かせて欲しいんだけど……」
「もちろんいいよ! こないだはその話できなかったもんね? ……というか、どうしてコスプレの話を聞きたいんだっけ?」
「……私が頼んだんだ。花梨ちゃんのコスプレがしたくて」
「え、花梨ちゃんのコスプレ!? 真凛が!? うわ、最高じゃん!!」
その姫乃さんの声に周りのクラスメイトたちがざわつく。
「ちょ、声が大きいって……!」
「あ、ごめん! ここで話すのはやめた方がいいかな。そうだ、屋上に行かない? けっこー穴場なんだよねぇ」
「そうだね。ここで話すと目立っちゃうし」
周りを見ると、みんな俺たちの会話に興味津々と言った様子。鳴海さんもここまで目立つのは本意ではないだろう。
「それじゃしゅっぱーつ!」
弁当箱片手に勢いよく立ち上がる姫乃さん。
俺たちはそんな元気いっぱいの姫乃さんについていくのだった。
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