第14話 屋上での攻防。
屋上といえば、青春の象徴のようなものだと思われがちだけど、実際は風も強いし、夏は暑いし冬は寒いしでうちの学校ではあまり人気のないスポットだ。
一応、お弁当を食べるためなのかベンチが置かれているけど、ここで食べる人はほとんどいない。
三人座るのがやっとという小さいベンチに俺たちは腰をかける。
当然、俺は一番端っこ。真ん中にはさすがに座れない。
そして、とんでもない速さで俺の隣を確保する鳴海さん。……いや、俺の隣というか、姫乃さんの隣か。
俺、鳴海さん、姫乃さんという順番で座り、今朝買ってきたコンビニ袋からパンを取り出す。
「誰もいなくてよかったね〜。これで心置きなくオタトークができそう」
姫乃さんが可愛らしい弁当箱を開ける。その中身は……『ブルドーザーマン』のマキのキャラ弁、かな?
鳴海さんは俺と同じくコンビニのパン。
「姫乃さんのお弁当、自分で作ったの?」
「うん! いいでしょ、これ! 自信作なんだ〜!」
その言葉の通り、そのキャラ弁はとんでもない完成度だった。
「相良くんも食べる? はい」
タコさんウインナーを器用に箸でつまみ、俺に差し出す。
「……え、いいの?」
「いいよ〜! 同じ花梨ちゃんリスナーのよしみです」
鳴海さんを挟んで差し出されたタコさんウインナー。とても食べてみたいけど……。
「…………」
鳴海さんの無言の圧を感じる。食べるな、と言外に言っている。でも、断るのも気が引けるし……。
どうしたらいいんだ……!?
「……食べないの?」
差し出されたウインナーがプルプル震えている。これ以上躊躇っていると姫乃さんの腕が筋肉痛になってしまいそうだ。
俺は意を決して口を開き、そのウインナーにかぶりつこうとした……!
――スカッ。
「……真凛?」
……のだけど、それは叶わなかった。
なぜなら、真ん中に座る鳴海さんが、姫乃さんの腕を取り、ウインナーを自分の口に運んだからだ。
「むぐむぐ」
ウインナーを咀嚼する鳴海さんと、呆気にとられている姫乃さん。
そして俺は、かぶりつこうとした姿勢のまま固まっていた。
「ごめん、美味しそうだったから」
ウインナーを飲み込んだ鳴海さんが、真顔で俺を見ながら言う。うん、確かに美味しそうだった。
「……なるほどなるほど。そういう感じなのね」
うんうん、と何かに納得した様子の姫乃さん。そういう感じとはどういう感じでしょうか?
「ごめんね、真凛? ……てか、そうならそうって言ってくれたらいいのに〜」
ニヤニヤしながらツンツン、と鳴海さんの腕を突きながら姫乃さんがいう。
……もしかして、お腹が空いていたという意味だろうか。姫乃さんのお手製ウインナーを食べてみたいという気持ちも少しだけあったけど、鳴海さんがそこまでお腹が空いていたなら仕方ないな。
「違うから。小春、勘違いしないでよ」
「はいはい、分かってるって! そんな誤魔化しても今更だよ?」
どうやら女の子は空腹を隠したがるものらしい。
「……これ、食べる?」
俺は今朝買ったコンビニを半分にして、鳴海さんに差し出す。
「なに、急に」
「え、だってお腹空いてるんじゃ……」
「……違うから」
「ぷっ……。くくっ……!」
冷めた表情の鳴海さんと、それを見て吹き出す姫乃さん。そしてついには堪えきれずに声を上げて笑い出す。
「……さ、相良くん……w もしかしてわざとやってる?」
「小春、笑いすぎ」
「だ、だって……相良くんがあんまりにも天然なんだもん」
「そ、そうかな……? ごめんね、鳴海さん」
どうやら俺は何かを見落としているか、気づいていないか……とりあえず選択肢を誤ったことは確実だ。
「別にいいよ。……てか、そのパン、食べないなら私にちょうだい」
そう言って口を開ける鳴海さん。
……これはいわゆるあーんというやつなのではないだろうか?
「あ、あーん」
どうするか悩んだ末、俺はパンを小さくちぎりそれを鳴海さんの口に運ぶ。
「ぁむっ」
顔の前に運ばれたパンのかけらに、勢いよく? かぶりつく鳴海さん。
――そして、俺の指に触れる鳴海さんの唇。
「……真凛、大胆だね?」
「むぐむぐ……。うるはい」
「相良くん、こんなめんどくさい真凛だけどよろしくね?」
そう言ってウインクをする姫乃さん。とても楽しそうだ。
「ごくん……。誰がめんどうって?」
パンを飲み込んだ鳴海さんがジト目で姫乃さんを睨みつける。……でも、どこか鳴海さんも楽しそうなのは気のせいだろうか?
「アハハ! まぁ、それだけ本気ってことだもんね〜?」
「……そういうことだから。小春、分かってるよね?」
「はいはい。分かってるって」
本気? コスプレのことだろうか? 俺も本気で成功させたいと思ってるし、とりあえず頷いておこう。
「……相良のバカ」
「え」
「そうだねぇ。相良くんはもうちょい真凛のことを見てあげてもいいんじゃないかな〜」
……確かに最近はコスプレのことで頭がいっぱいで鳴海さんのことを見れてなかったかもしれない。
それに、来週なにかがあるみたいだし、それまでに鳴海さんともっと話さないとな。
――そんなことを考えながら、俺は半分になったパンに齧り付くのだった。
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