第12話 覚悟の準備。
「あのー、鳴海さん……?」
「ん? なに? どうしたの?」
「いや、どうしたのっていうか……」
姫乃さんと別れた後、俺たちは作戦会議? のために俺の家に集合していた。
……のだけど。
うん、なんか鳴海さんの様子がおかしい。部屋に入ってからというもの、俺の隣を陣取り離れる気配がない。
要するに、めちゃくちゃ距離が近い。
「……相良が悪い」
どうやら俺のせいらしい。理由はよく分からないけど、姫乃さんが俺の部屋にくると言ってからずっとこの調子だ。なんなら、ここにくるまでずっと手を握っていたし。
「ご、ごめん……? あれ、俺何かした?」
正直、鳴海さんがこうなってしまった心当たりはない……わけではないけど、それをいうのは少し憚られる。
「分からないならいいよ。私の問題だから」
そう言って俺の隣をキープし続ける鳴海さん。しかもいつもより距離が近い気がする。ふわりと香る鳴海さんの匂い。
「……それで、姫乃さんのことなんだけど」
「うん」
気を取り直し、そう切り出す。
「鳴海さんから声をかけてもらえないかな? 俺から連絡するのはちょっと気後れするというか、なんというか……」
クラスのアイドルに、おいそれとメッセージを送れない。鳴海さんとはよくメッセージをやりとりするけど、それも鳴海さんからのメッセージに返信するくらい。
……鳴海さんは「もっと相良からも送ってきてよ」と言っているけど。
「分かった。学校でも話すこと多いし、その時に聞いてみる」
「よろしくね。それじゃ、俺は今日のイベントのまとめでもしようかな……」
机からノートを取り出すために立ち上がる。……と、鳴海さんも立ち上がって俺の隣をキープする。
「…………」
ちら、と横を伺うと、それが当たり前と言わんばかりに無表情の鳴海さん。
……気にしたら負けだ。
「律〜。お菓子持ってきたわよ〜……って、あら、仲良しねぇ」
タイミング悪く母さんがやってきたみたいだ。こんなにくっつかれているところを見られるのは流石に気まずい。
「……真凛ちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい」
困った様子の俺を見かねたのか、母さんが助け舟? を出してくれる。
声をかけられた鳴海さんと、母さんが部屋から出ていく。
「……ふぅ」
誰もいなくなった部屋で一息。
鳴海さんの様子がおかしくなったのは、やっぱり姫乃さんと出会ってからだ。距離はいつも近かったけど、これほど露骨にくっついてくることはなかった。
「もしかして俺に嫉妬してるのかな……?」
俺と姫乃さんが仲良くなって、姫乃を取られるのがイヤなのかもしれない。……まぁ、もしそうだとしてもあんなにくっつくのはよく分からないけど。
「お待たせ〜。律、邪魔してごめんねぇ」
うんうんと頭を悩ませていると、二人が戻ってきた。
なぜか満面の笑みの母さんと、少し顔の赤い鳴海さん。いったい二人でなんの話をしたんだろう……?
「律、来週の金曜日は空いてる?」
「え? ああ、うん。空いてるけど……」
急にどうしたんだろう。母さんから俺の予定を聞いてくるなんて珍しい。おせっかいだけど意外と放任主義なのに。
「それじゃその日は予定、空けといてね?」
「いいけど、なんで?」
「まぁまぁ、いいじゃない! 今からのお楽しみってことで〜」
ニヤニヤと笑いながら母さんが言う。……イヤな予感しかしない。
「じゃ、そういうことで! お邪魔ものの私は退散しま〜す。またね、真凛ちゃん」
「うん、ありがとう、ママさん」
手を振り上機嫌で部屋を出ていく母さん。
……いつの間にか二人がめちゃくちゃ仲良くなってる。いや、前から仲は良かったけど、今の二人は何か含みがあるというか……秘密の共有でもしているかのような団結力というか。
「……相良、覚悟してね」
「え? 覚悟?」
……いったい何をやらされるんだろう?
──
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