第10話 初デートと、思わぬ出会い。


 一週間後。


 待ち合わせの秋葉原駅にて。

 現在時刻は10時半。


 コスプレイベントに参加するため、俺は鳴海さんとの集合場所に30分前に到着していた。


「お、相良。早いね」


「お、おはよう、鳴海さん」


 ぼんやりと行き交う人たちを眺めていると、キラキラとしたオーラを纏った鳴海さんがやってきた。


 朝の日差しをキラキラと反射する綺麗なストレートヘア。いつも眠たげな瞳は完璧にメイクされ、じっと見ていたら吸い込まれそうな引力がある。


 そして、今流行りの淡い色使いのアウターと、スタイルがよく分かるタイトなボトムスも、彼女の魅力を最大限引き出している。


 つま先から頭のてっぺんまで完璧にコーディネートされた鳴海さんは、オタクの街アキバで異彩を放っていた。


 行き交う人たちは鳴海さんが通るたびに振り返る。


 普段見ている制服姿とはまた違った魅力を纏う鳴海さんは、なんというか、すごく大人っぽい。高校生とは思えないオーラだ。


 ……一言で言うと、とても可愛い。


「……どうしたの、ボーッとして。もしかして見惚れてた?」


 楽しげに笑う鳴海さん。俺を揶揄う時はいつも楽しそうだ。しかも、その通りだったので返す言葉もない。


「うん。すごく似合ってる。その……か、かわ……」


「かわ?」


「可愛い、と思います……」


 俺は思ったことを包み隠さずに伝える。鳴海さんには隠し事はしないと決めたから。


「……あ、ありがと。まぁ、初デートとしては合格かな」


 で、デート……? これってデートなの?


 どこまで本気かは分からないけど、気合の入った鳴海さんのコーディネートを見るとあながち間違いでもない気がしてきた。


「それじゃいこっか。イベントまでまだ時間あるし、昼ごはんにしよ」


 そう言って俺の手を取り歩き出す鳴海さん。急に距離を詰められてびっくりしてしまう。


 そんな俺たち二人を、アキバの街を歩く人たちが何度も振り返り見る。


 冴えないオタクと、キラキラオーラの美少女。そんな二次元でしかありえないカップルが実際に存在していることに驚いているのだろうか? ……まぁ、自分でも現実感がないしな……。


 ◇◇◇


 俺たちは昼ごはんを済ませ、イベント会場へ向かう。


 あらかじめ下調べしておいたカフェに案内したら、鳴海さんは驚きながら「やるじゃん、相良」と言ってくれた。ランチも美味しかったし、ちゃんと調べておいてよかった。


 今日参加するイベントは『アキコス』。


 秋葉原にコスプレ文化を復活させることを目的とし、月に1度、秋葉原に有志が集い開催されるコスプレパフォーマンスイベントだ。


 会場の外にはもうたくさんの人が集まっていた。こういうイベントには初めて参加するから少し緊張する。なんていうか、独特の熱気があるというか。ここにいる人たちはみんなコスプレに真剣なんだろう。その熱が俺にも伝わってくる。


「すごい人だね。……はぐれないように、手、繋ごっか」


「え!? あ、うん」


 言われるがまま、俺は差し出された鳴海さんの手を取る。スラリとした、少し冷たい手。そんな彼女が俺の手を優しく包む。


 ……手汗とか大丈夫かな?


 内心ドギマギしながら、それを表情に出さないようにする。……というか友達って、ここまでするものなんだな。


 会場は地下のスタジオだ。階段を降り、受付を済ませて中に入ると、そこにはさらにたくさんの人たち。薄暗い空間、そしてライトアップされたステージ。すごく本格的だ。


 開場までしばらく時間がある。俺たちは壁際でその時を待つ。


「……なんか緊張してきたね」


 隣に立つ鳴海さんが、俺の耳元に顔を近づけて小声で囁く。


 突然のことに驚いた俺は無言で頷く。耳元にあたる吐息が、俺と鳴海さんの距離の近さを感じさせる。


 そして、ドキドキしながら待つこと数分。ついにイベントの幕が上がる。


「……はじまった」


 次々にステージに登場するコスプレイヤーさんたちがそれぞれ本気のコスプレを披露していく。


 最近流行りのアニメのキャラクターや、昔からの人気キャラクターのコスプレ。個性豊かな衣装は、その度に新鮮な感動を観客に与える。


「すごい……!」


 その度に、会場のボルテージは上がっていく。初めて味わうその熱気に、俺は思わずそう呟いていた。


「ね、あの人のコスプレ、すごくない? どうやって作ったんだろ? ……あ、次の人のもすごいよ! うわ、懐かしいなぁ、あのキャラクター」


 知っているキャラクターもいれば、知らないキャラクターもいる。でも、そんなの関係ないくらいすごいコスプレばかりだった。


「相良、楽しそうだね。……私もああなれるかな?」

 

 隣で盛り上がる俺を見た鳴海さんがポツリと呟く。少し不安げな声。


「……俺、本気で頑張るよ。鳴海さんを完璧な花梨ちゃんにしてみせる」


「そっか……。ふふ、ありがと。信頼してるぞ、相良」


 俺の返事を聞いた鳴海さんが優しく微笑む。彼女の期待に応えるためにも、ちゃんとコスプレを記憶に残しておかないと。


『――さぁて、お次で最後になります! 次に登場するのは、【こはるん】さんですッ! それではどうぞーー!』


 司会の人がこれまで以上にテンションを上げて叫ぶ。


 もう終わり、なのか……。楽しすぎてあっという間の時間だった。


 ライトアップされたステージが、これまでと雰囲気を変える。ライトが消え、暗転。


 そして、現れたのは――。


「……え、あれって――」


 隣に立つ鳴海さんが驚きに目を見開いている。


……?」


 そして彼女の口から溢れたのは、俺もよく知る人物の名前。


 クラスのアイドル、一番人気の女の子の名前だった。



──

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