第8話 エンゲージリング……!?


 鳴海さんの計画に協力すると決意したものの、あいにく俺はコスプレに関しては詳しくない。


 たまにイベントなどでコスプレイヤーさんを見かけることはあったけど、なんだか話しかけるのも躊躇われていつも遠くから眺めるだけだったし。


 だから俺は資料集めも兼ねて、コスプレイヤーさんたちの写真を集めることにした。


 そして、その中で印象的だったり完成度の高いコスプレの写真は、相談のために鳴海さんに見せることにしたんだけど――。


「見てよこの人。衣装の完成度、めちゃくちゃ高いよね。こことかどうやって作ったんだろ」


「…………相良、なんか楽しそうだね」


「そう……かな? 昔から母さんの影響で服とか小物はよく見る癖がついてるからかな?」


「……ふぅん。あっそ」


 俺が集めた写真を見せると、鳴海さんはいつも不機嫌になるんだよな……。


「なんでそんなに不機嫌なの? 俺、なんかしたかな?」


「……相良がそっちに夢中になるのが気に入らない」


 夢中? そんなつもりはなかったんだけどな。あくまで資料として研究してるから、すごい衣装だなと思うことはあっても夢中にはなってない。


「せっかく私が隣にいるのにさ。ちょっとは構ってよ」


 ……な、なるほど?


「わ、分かった。それじゃあ一緒に花梨ちゃんの配信を見ながら衣装の研究をしよう」


「うん。……スマホ出して」


「え? パソコンで見ようよ」


 俺のパソコンはそんなに高性能なわけじゃないけど、配信を見るくらいならなんの問題もないはず。


「いいからこっち来てよ。ほら、ここ」


 ベッドに座っていた鳴海さんは、俺が座るためのスペースを空けてくれた。ポンポン、とベッドを叩いて座るように促している。


 ……いいのかな。そんなとこに座ったらめちゃくちゃ近くなるけど。肩が触れ合うどころか体のほとんどが触れ合うことになりそう。


「……なにしてんの。はやくしてよ」


「うわっ!?」


 座ってもいいものか葛藤している俺の腕を引っ張り、無理やりベッドに座らせる鳴海さん。


 俺たちの距離は数センチもない。ほとんど密着しているといってもいい。


 ――そしてふわりと香る鳴海さんの匂い。柑橘系の香水をつけているのだろうか。さっぱりとしたいい匂いだ。


「……ほら、こうやったら一緒に見れるでしょ? ……って、ちょっと相良、なに離れてんの」


 流石に近すぎると思ってちょっと横にずれたら、すぐに距離が詰められる。そんなことをしているうちに俺はベッドの端まできてしまった。


 ……もう逃げられない。


「……そんなに私の隣がいやなの?」


「い、いや! そんなことはないんだけど! ちょっと緊張しちゃうっていうか!」


「このぐらいで緊張しないでよ。これから衣装を作るときとかどうするの? 採寸とか、試着とかあるんだよ?」


 ……確かに鳴海さんの言うとおりかもしれないな。


「ご、ごめん。別に鳴海さんの隣がイヤとかじゃないんだけど……。むしろ嬉しいというか」


「ならいいじゃん。……うーん、いつの配信なら衣装がよく見えるかな。とりあえず昨日の配信にしよっか」


 鳴海さんは気にしている様子もないし、どうやら俺だけが気にしすぎていたみたいだ。


 ふう、と気持ちを落ち着かせてからスマホを取り出す。……よし、昨日の配信ね。


 動画アプリを開き、鳴海さんに見えるようにしてあげる。


「昨日の配信、神回だったよね。特に花梨ちゃんが『ブルドーザーマン』のことを熱く語るシーンなんか、何回も見ちゃったし。あの微妙なモノマネがいいんだよねぇ……。あ、このシーンとか衣装がよく見えるんじゃない?」


 熱く語りながら配信を見ていると、ちょうど良さそうなシーンが。


 俺は一時停止ボタンを押して、鳴海さんの方を向く。


 ――すると鳴海さんは、なぜか俺の顔をじーっと見つめていた。


「――鳴海さん?」


「……え、ああごめん、なんだっけ」


 俺が声をかけると、ハッとした様子で画面に目を向ける。


「ほら、このシーン。衣装がよく見えるよ」


「ほんとだ。……こことか、かなり作るの大変そう」


 確かにかなり複雑そうな構造だ。参考にするためにスクショを撮っておくか。


「よし。それじゃ続き見よっか。次は――」


 ――画面に目を戻し、再生ボタンを押そうとしたその時。俺の手が鳴海さんに掴まれる。


「……どうしたの、この絆創膏」


 鳴海さんが俺の薬指に巻かれた絆創膏を見つめながら心配そうに言う。


「ああ、昨日裁縫の練習をしてたら怪我しちゃって……」


「私のためにそこまでしてくれたんだ。嬉しい」


「う、うん」


「……ちょっと待ってて」


 鳴海さんはそう言ってベッドから立ち上がり、自分のカバンの中から絆創膏を一枚取り出す。


「貼り直してあげる。手、出して」


 言われたとおり、俺は手を差し出す。


 すると、鳴海さんは俺のに巻かれた絆創膏を丁寧に剥がしていく。


 ――ぺりぺり。


「ありがとね、相良。私のために」


 そして、俺の傷ついた指を慈しむように、ゆっくりと俺の指に新しい絆創膏を巻いていく鳴海さん。


「……よし、終わり。もう怪我しないでね」


「う、うん。ありがとう、鳴海さん」


 左手を見ると、絆創膏に描かれた可愛らしいクマさんと目が合う。鳴海さんらしい、可愛い絵柄の絆創膏だ。


「ふふ、どういたしまして。……あ、しばらくは剥がさないでね」


 正直、傷はもうほとんど治っている。だけど、そんなことを言う気にはならなかった。


 ――優しく微笑む鳴海さんが、あまりに魅力的だったから。

 


──

左手の薬指……!?

これはもう、そういうことですか!?


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