第4話 マイホームにギャルが来た。
そうして歩くこと十数分。
気付いたら自分の家に到着していた。アニメイツからは徒歩で10分くらい。その間、俺の手はずっと鳴海さんに握られていた。手というか、手首あたりだけど。
途中で鳴海さんはそのことに気付いたようだったけど、なぜか離そうとしなかった。どうやら無意識のうちに手を取っていたらしい。
そして当の鳴海さんは隣に立ち、興味深く俺の家を観察している。
――どうしてこうなった……。
「ちょ、ちょっと待ってて! 母さんに事情を説明してくるから」
鳴海さんが家に来るのは、まぁ嬉しいんだけど……。
問題は俺の
もし二人が出会ったら絶対に面倒なことになる。俺の母さんはおせっかいだから。女の子を連れてきたなんて知られたら……。うん、考えたくない。
どうにかして二人を会わせないようにしないと――。
「お邪魔しまーす」
「ちょっ!? 待っててっていったよね!?」
先に入って母親に事情を説明するつもりだったのに、鳴海さんは俺の言葉を無視して着いてきていた。しれっと玄関に入って挨拶をしている。
「あら、やっと帰ってきたのね――」
案の定、帰宅を待っていたらしい母さんが俺たちを出迎え、そして俺の隣に立つ鳴海さんの姿を見て固まってしまう。
「初めまして、鳴海真凛です」
鳴海さんは俺の焦りを無視してペコリと一礼。それを見た母さんは、ハッとして現実に戻ってくる。
「い、いらっしゃい。相良の母です。ゆっくりしていってね、鳴海さん」
「はい。お邪魔します」
「……えっと、いきなりこんなことを聞くのもどうかと思うけど、二人はどういう関係なのかしら?」
初対面なのにやたらと突っ込んだ質問を投げかけてくる母さん。だからイヤだったんだ。
「と、友達だよ! ね、鳴海さん」
「……え、ああ、はい、友達です」
返答に困っていた鳴海さんに変わって、母さんの質問に答える。チラリと隣を見ると、どこか不満げな鳴海さん。
「……あー、そういうこと。はいはい」
俺の返答に納得したのか、ニマニマと俺と鳴海さんを交互に見る母さん。……絶対勘違いしてるよね、これ。
……き、気まずい。
「そ、それじゃ俺の部屋に行こっか、鳴海さん」
「……あ、うん。お邪魔します、ママさん」
気まずさに耐えられなくなった俺は、鳴海さんを部屋に案内する。俺の部屋は2階にある。
母さんの隣を抜け、階段を上がる。
「ふふ、ごゆっくり〜」
階段の下からそんな声が聞こえる。振り返ると母さんが笑顔で小さく手を振っていた。
◇◇◇
「ど、どうぞ。汚い部屋ですが」
「お邪魔します。……ふぅん、キレイにしてるんだね」
部屋の扉を開け、鳴海さんを迎え入れる。
毎日軽く掃除はしているが、いかんせん物が多すぎてなかなか片付かない。
「……てか相良のお母さん、めちゃくちゃ美人だね」
彼女の言う通り、母さんは美人だ。俺が言うのもアレだけど。
セレクトショップのオーナーをしている母さんは仕事柄、美容にはかなり気を遣っているらしい。そのおかげか、見た目もかなり華やかというか、ギャルっぽいというか。特に流行のファッションには目がない。鳴海さんとは話が合いそうだとは思っていたけど……。
「そ、そうかな? ていうか、ごめんね。いきなりあんな質問されて困ったよね」
「気にしてないって。……私たち、
俺が手渡したクッションに腰を下ろした鳴海さんが、友達の部分を強調して言う。気にしてないなら良かったけど……。
「それより、すごいね相良の部屋。花梨ちゃんグッズだらけじゃん」
鳴海さんが周りをキョロキョロと見渡して、そんな感想をポツリと呟く。彼女の言う通り、俺の部屋は花梨ちゃんグッズで埋め尽くされている。
……というか、いまさら女の子が俺の部屋にいるという状況に緊張してきた。
こんなオタク部屋に鳴海さんみたいな可愛い女の子がいるなんて、まるで現実感がない。
「まぁ私の部屋も負けてないけどね」
花梨ちゃんのことになると、鳴海さんはいつもこうやって張り合ってくる。かなり負けず嫌いな性格らしい。
……俺も負けてられない。
立ち上がり、クローゼットを開け、その中に仕舞われていた一つの箱を取り出す。
「そ、それって……!」
その箱を見た鳴海さんは、珍しく驚いた表情になる。
……ふふふ、そりゃそうだろう。なんてったってこれは――。
「【数量限定 花梨ちゃんフィギュア】……!」
そう。これが鳴海さんさえも持っていないお宝。俺の家宝。
デビュー一周年を記念して作られたこのフィギュアは、数量限定かつ抽選販売ということもあってほとんど市場には出回っていない。ファンからすると垂涎の一品なのだ。
「すごい……。実在したんだ」
フィギュアを見ながらうっとりとした表情で言う鳴海さん。うんうん、わかるよその気持ち。最高だよね。
かなり気合を入れて作られたのだろう。クオリティも申し分ないこのフィギュアを見ると、この世界に来栖花梨という人間が実在するんじゃないかという錯覚すら覚える。
「ね、ねぇ。……写真撮っていい?」
「もちろん。何枚でも撮っていいよ」
鳴海さんはこのフィギュアの素晴らしさに魅了されているみたいだ。スマホを取り出し、いろんな角度からパシャパシャと写真を撮る。
「えへ、えへへ」
いつものクールな表情はどこへやら。だらしなく口を開けて恍惚とした表情になっている。
そんな鳴海さんの姿を見て、俺も嬉しくなってくる。花梨ちゃんの素晴らしさを誰かと共有できる日が来るとは夢に思っていなかった。
俺は今までずっと一人だった。父親の影響で昔からアニメや漫画が好きだった俺には話題が合う友達はいなかった。
今となっては、アニメとかが好きなのは普通なことになりつつある。でも、小さい頃はまだオタク文化がそこまで世間に浸透していなかった。
いつしか、俺は一人で趣味の世界に没頭するようになった。そのほうが気楽だったし、別に一人が苦でもなかった。
……でも、鳴海さんと出会って、俺は知ってしまったのかもしれない。
趣味を一緒に楽しめる誰かと一緒に居ることの楽しさを――。
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