第19話 百点
「リルベリー、まだ返してないから静かにしてくださいね~」
「はーい!」
リロの奴……座学に自信があるのか?
嘘だろ? 絶対アホだと思ってたんだが。
そして一人一人、名前の後に点数を発表されると言う、処刑の様なテストの返却が始まった。
俺はアホじゃないので何も怖くないが。
案の定、かなりの点数の付いたテストを返してもらい、俺はリロの呼ばれる番を待った。
ユーリィもアホじゃない様だ。俺がある程度手を抜いているので今のところユーリィがトップである。
「次~、リルベリー・シャンゼロロ~……百点」
「やったああああ!!」
まじかよ。
今、教室中がそう思っているのが空気感で分かる。
「リルベリーうるさ……はぁ、まぁ、もう良いです」
「やったやったやったあ!」
アルバンのお許しを得て、やったやったと小躍りするリロ。
意外過ぎる結果に教室のざわめきが収まらないままに、アルバンは話しを進めた。
「じゃあアシュバルト、ユーリィ、リルベリーの三人は来週ルイス団長とある任務に付いてください~。説明は直接団長からあると思いま~す」
「はーい! 頑張ろうねっ! アン! ユーリ!」
ユーリィはこの結果が分かっていたのだろう。
うん、頑張ろうねと穏やかに微笑む。
俺は未だに信じられないまま、ぎこちなく頷くので精一杯だった。
この時点で早くもルイスと任務に行けるとはとても順調だと言って良い。
だけどまさかそこにリロも混ざるとは……。
「ふふふ」
その日の放課後、まだ一週間後だと言うのに、リロは色々と準備をすると早々に帰ってしまい、俺は教室の窓の鍵を閉めながらユーリィが日誌をつけ終わるのを待っていた。
「何が面白いんです?」
「ふふっ、だってアッシュ君、リロが百点って分かった時の顔……ふふふっ! あんな顔もするんだなぁと思って可笑しくって」
「……思い出し笑いですか、そりゃ驚きますよ」
「リロはあんな調子だから誤解されがちだけどすごく勉強出来るんだよ」
勉強が出来るのと性格は別物だってのは理解出来るが……どうにもその勉強を活かせている様には見えないな。
「それで言ったらユーリィがあんなに体術が得意だったのも正直驚きましたけどね」
「えっ……! そっ……そうかな? えへへっ……体術はね、お父さんが体術道場の師範やってるのもあるし、私の加護は攻撃したりが嫌いな子だから、人一倍稽古はしたよ」
なるほど、実家の環境が大きいのもあるが、ちゃんと自分の加護の特性を理解してるんだな、リロより点数は高くないかも知れないが、本当の頭の良さとはこう言う事だろう。
「アッシュ君が私にも驚いていたなんて意外」
「僕をどんな奴だと思ってるんです?」
「うーん、アッシュ君っていつも他の子と比べて大人っぽいって言うか、余裕があるって言うか……でもそれなのに、初日からそうだったけどリロが絡むと全然余裕がなくなるよね」
「え……」
言葉に詰まる。初めて会った時からリロが光って見えるのはあいつの強力な加護のせいかと思っていた。
でもどうやら違う。
何とか自分だけをごまかし続けていたけど、ユーリィの言う通りだ。
俺は全然アシュバルト・アレンをやれていないどころか、リロに対して特別な感情がある事さえ隠せていないのだ。
「もしかして分かりやすいですか?」
俺は窓の施錠を終え、ユーリィの座っている机に近付いた。
「えっ?」
日誌を書いていた手を止めてユーリィが俺を見上げる。
俺がこんな事をこんなに素直に認めると思っていなかったのだろう。目がまん丸だ。
「あっ、ごめんね! 別にそう言う意味で言ったんじゃない……んだけど……まぁ、分かりやすいかな?」
ユーリィが気まずそうに笑う。
俺は正直ショックで、隣の机に座り、ユーリィの顔を見ない様に反対向きに肘を付いた。
「大丈夫だよ、私が二人の事良く見てるだけだから」
慰められているのか俺は。
「あっ! 言っとくけどな、だからって俺は別にリロとどうこうなるつもりは全然ないから、女子特有の変な気の使い方とかするなよ?」
しまった。まただ。またまんまとリロ絡みで余裕を無くして言葉が荒れてしまった……と、言うか素が出てしまった。
さっき以上にユーリィの目がまん丸になっている。零れ落ちるんじゃないかってくらいに。
「すみません、あの、まぁとにかくお気遣い無用なので……」
「ふふっ! 初めてだね! 何だか嬉しいな!」
まん丸だった目を細めて、ユーリィは本当に嬉しそうな顔をして笑って見せた。
何なんだ突然。ユーリィも十分俺の余裕を奪って行く存在なんだが……。
「リロにも時々、そうやって本当のアッシュ君を見せるよね。私もリロも、もうアッシュ君の事仲間だって思ってるから、無理して良い子で居なくても大丈夫だよ」
「は? ……ははっ」
ユーリィの言葉に一瞬思考が停止して、理解が追い付いたと同時に俺は自嘲的に笑った。だってそうだろう。
本当の俺? 良い子?
本当の俺なんかもう居ないし、良い子とは真逆を目指している。
あんたらの大事な人を殺そうと思ってる人間に仲間だとかおめでたいじゃないか。
「これが本当の僕ですよ」
「……あ……うん、そうだね。ごめん」
分かりやすく突き放した言い方をしたのでユーリィは日誌の作業に戻った。心がチクリと痛む。
「それと、リロとどうこうなる様に気を使う事もないから安心して。リロは……好きな人が居るからね」
俺が突き放したから、意地悪をされているような気がする。
大人しそうな顔して案外黒い奴だ。
そう言って俺の反応を楽しむつもりか。
また余裕を無くさせて素を出させるつもりか。
誰? そう聞きたい気持ちを抑える。
いつも一緒に居て、付き合いも長いユーリィの情報は確かなものだろう。
しかし、リロとどうこうなるつもりがないのは本当の事だ。
「ずるいな……」
俺が黙っていると、ユーリィがそう小さく呟いた様な気がした。ずるい……? 誰? 俺? まぁ間違いではないが。
「……何です?」
「何でもないよ、終わったから出してくるね、帰ってて良いよ」
そう言って、ユーリィはパタパタと教室を出て行った。
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