第17話 優秀なオス

 バカな……俺は一体何を……。


 適当に負けてクラス委員を回避するつもりだったじゃないか。それが一番だと。

 それなのに俺は一体何にカッとしてこんな真似をしたんだ。

 挙句リロに褒めてもらって満足してた、ダメだ、またペースを乱されている。


「あー、今のはたまたま上手く行きましたけど……あの、ブルーさんって人にはきっと……」


 敵わないと思う……そう言おうとしていた言葉が詰まって出て来なかった。

 俺がクラス委員をしなかったら、他の誰かが当然やるわけで、そうなったらリロはきっとまた簡単に仲良くなって……、例えば俺がブルーに負けてブルーがクラス委員になったとしたら、この人アンより強くてイケメンねって思うだろう。


 ……別に問題ない。全然問題ない。


「ブルーにはきっと……? 勝てない?」


「余裕で勝てます」


 俺が途中で押し黙ってしまったので、リロが不思議そうに続きを予測して来たが、俺はそれを否定していた。

 別に全然問題ない筈の事が、俺は気に入らなくて仕方がない。


「全員余裕でぶっ倒して俺が……僕が……」


「クラス委員だね! 良かったっ! 私アンとが良いもん」


「どうしてですか……?」


 嬉しそうなリロに平静を装って理由を尋ねるが、返って来た答えはどうにもスッキリしない。


「ん~? なんとなく! なんとなく……」


 リロは何か続けようとしたが、アルバンに名前を呼ばれて続きを聞く事は出来なかった。俺の二回戦が始まる。


「頑張ってね!」


「はい」


 二回戦もほとんど同じ戦法で勝ててしまった。派手なアクションは封印したものの間合いを詰めてみぞおちに一発だ。


 準決勝で目を付けていたトモキ・タナカと当たったが、それも言うに及ばず。


 何だかんだでやはり勝ち残っていたブルーとの決勝戦だったが、俺の圧倒的な試合を見て来たからか、すでに戦意喪失。トモキの方がよっぽど強かった。


 俺の試合以外は、雄叫びをあげつつの拮抗した試合が繰り広げられていた様だが、俺自身はおりゃーでもせいやーでもなく、結局汗一つかかずにクラス委員になってしまった。


 精霊無しの勝負だったとは言え、少々拍子抜けってのが正直な感想だな。

 それだけ加護が大きなアドバンテージになるとも言えるが、俺の対戦相手はブルー以外加護無しだった筈だ。

 まぁ入学したての騎士団候補生程度ならこんなものか。


「じゃあ男子のクラス委員はアシュバルト・アレンで決まりです~……が!」


 なにやらアルバンがまた楽しそうな顔をしてぱちんと両手を叩く。


「女子の皆さ~ん? このままリルベリーがクラス委員って事で良いのかなぁ~?」


 は?


「ええっ?!」


 リロが驚いて声を上げるのと同時に、たくさんの女生徒の声が重なった。


「良いワケないわ!」


「先生! 女子もトーナメントをやるべきだと思います!」


「そうよそうよ!」


「私もそう思います!」


 どう言う事だ……。

 大人しく男子の試合を眺めていただけの女生徒たちが、アルバンに煽られて口々にトーナメントの開催を主張し始めたではないか。


「あはははは、ほーんと分かりやすいですね~あなた達」


 何が面白いんだアルバンてめぇ。これは言ってみればリルベリー・シャンゼロロ争奪戦みたいなものだっただろう。


「優秀なオスの取り合いをする肉食系女子怖いです~。でも嫌いじゃありませ~ん」


 優秀なオス……? オスって俺の事か?

 何だよ、地味な俺が派手に勝っても歓声一つあがらなかったじゃないか。


「おやおやアシュバルト君不思議そうな顔しちゃって。無自覚モテ男って憎たらしいですね! あなたが勝ち進んで行く度に一人また一人と、女子たちが顔を赤らめていた事に気付いてなかったんですか~? 特に初戦では声も出ない程女性を魅了しちゃったくせに~」


「へっ?」


 モテ男……? 俺が? 嘘だろまさか。

 あっ! もしかして……地味でも黒髪なら……普通にしててもモテるのか?

 へぇ、ああ……そうなの……か?


「と! 言う事でぇ~、次の体術の授業では女子のトーナメントを、開催しちゃいますゾ」


 良いぞやれやれと盛り上がる男子たち。

 まるで男の様に気合の入った声をあげる女子たち。

 異様な熱気に包まれた我がクラスは、休み時間を経て体術戦トーナメントへと突入するのだった。


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