2月12日 Monday
今日は祝日だ。
朝早くに起きてケーキを作った僕は、お昼頃まで熟睡できた。
だからだろうか、今日はとっても調子がいい。
でも、だからこそ、僕は、彼女の作る不可解なお菓子を理解できない。
「なんでそうなるんやろうね………、」
「それはわたしが聞きたいです」
今日も今日とて、僕ときなこさんの目の前にはちょっとばかし失敗してしまっているマカロンの姿があった。
彼女の作るマカロンは表面がバキバキに砕け、マカロナージュが存在していないという大きな欠陥を抱えている。あの手この手で失敗を防ごうとしても、それは決して叶わない。
「やっぱり、マカロンは諦めた方が良いのでしょうか………」
「味は問題ないんやけどねぇ………、」
僕の言葉に、きなこさんは首を横に振る。
「彼はとっても優しいからわたしなんかが作ったぼろぼろのお菓子でも、きっと喜んだフリをしてくださいます。けれど、それではわたしの気が済まないのです。どうせならば、彼に美味しいと思っていただきたいと思ってしまうのが、乙女心なのです」
真摯に見つめられると、それ以上言葉を紡げなくなってしまう。
ここまで真っ直ぐとした純真無垢な恋心を抱いてもらえる男は、人生で最も幸せな人間になることだろう。
「そうかいな。じゃあ、もう1回練習するか?」
「いいのですか?」
「ええよ」
もう1回丁寧に丁寧にマカロン生地を作って焼き始めた彼女に、どう足掻いても僕の視線は飲み込まれてしまう。
控えめに言って可愛い彼女がお菓子を作っているレアな姿が、可愛くないわけなんてない。
一生懸命な彼女の姿に、僕は何度も何度も惚れ直す。
惚れ直すたびに、ビターチョコよりも苦くて苦しい恋心を必死になってしまい込む。
(ほんっと、僕ってば情けないなぁ………、)
帰り際、1つだけ上手にできたと跳ねる彼女に、僕は苦笑する。
握り込んだマカロンは、僕のお菓子作りを始めたばかりの頃を連想させてくる。
「ありがとうございました!明日もよろしくお願いします!!」
そう言って帰って行った彼女の背中を見送ったわずか5分後、周辺地域を激しいゲリラ豪雨が襲った。
僕は、スマートフォンを握り込んであっちにフラフラこっちにフラフラまるでクマのように歩き回った。
自分から連絡ができない。
そんな意気地なさに、自分で自分が嫌いになる。
「ほんまに、大丈夫やろか」
久方ぶりの祝日、幸せな日であるはずなのにも関わらず、僕はきなこさんに抱いている生クリームみたいに淡くて甘い恋心に振り回されて、頭もブンブンぶんぶん振り回す羽目になってしまったのだった———。
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