第18話 終幕
「なんと素晴らしい体だろうか……!」
ソフィリアの体を乗っ取った悪魔 老土は手のひらにゼーレを集め始め、その体の有用性を理解する。
ソフィリアは幼い頃から数多の教育を受け、数多の魔法技術を身につけてきた。その為、実力は神には及ばないとしても匹敵するほど高度である。
「私の恩人を弄ぶのはやめてください」
少女の
「弄んでなどいない、この体に、この力に俺は心の底から喜びを感じているだけだ」
「それを弄んでいるって…いうんですよ」
少女の怒りは限界に達した様子で、先程の
「面構えがちょっと変わったか?」
「怒りという感情を久しぶりに思い出しました、私をあまり舐めないでください」
取り憑かれ、押し殺された感情達が唸りを上げ、ミラのボルテージが上昇する。
刹那、巨大な氷の結晶がミラへと降り注がれた。
「さぁどうするんだぁ?エルフ族」
息を整える。波長を合わせ、ゼーレを練り混む。
エルフ族にはある掟が存在する。それは、準備を怠るなということ。何事も準備なしでは到底なし得ないという考えからである。
ミラは静かに目を閉じ、自身の怒りと顔を合わせる。
そして、心の底から込み上げてくるモノを一気に放出させる。
「“グラオザーム”」
絶大な威力を纏ったゼーレが氷を諸共せず、全てを焼き尽くす。
たった一瞬の出来事だったため、その場にいた者の空いた口は塞がらない。
「な、なんなの…?それ」
「余が分かるはずないだろ…ただこれは想像以上じゃ…」
老土は何が起こったのか分からなかった。分かるはずもない、ただの少女だと思っていたミラがこんなにも威力の高い攻撃を仕掛けてきたからである。
氷と共に焼き尽くされた老土は恐怖から立ち上がることすら出来なかった。エルフという存在に魅せられてしまったのだ。
「なぜ…そんな力をお前が持っているんだ?」
「貴方にこの力がバレることも理解することもありません、隠すことも魔法です」
悪魔は観念したかのように、一言も発することなくアクアによって処理された。
残ったソフィリアの体は尚も目を覚ますことなく、そこに在っただけだった。
「ソフィ……目を覚ましてくれ」
「アクア、何とかならないのか?」
「……無理よ、私にできることは無い」
アクアは拳を強く握りしめる。
絶望の最中、再び少女は言葉を放つ。
「大丈夫です、私に任せてもらえれば」
そう言うと少女は奥の納屋から持ってきたと思われる薬のようなものをソフィリアの口に運ぶ。
静寂に包まれた空間の中に緊張が走る。心臓の鼓動が一段と激しさを増し、息を飲むことすら苦しくなる。
そして、静寂を破るように美しくも芯のある声音が響き渡る。
「あの、私は…一体どれくらい眠っていたんでしょうか」
助からないと思っていた、無力さに非力さに打ちひしがれていた。そんな状況下を一転するほどの安堵感が辺りを包み込む。
アテラはソフィリアに抱き着き、ほろりと涙を流す。
「ソフィ……ソフィ……」
「どっ、どうされたんですか?あまり記憶がなくてですね……」
「良かったです、本当に良かった」
「心配させるんじゃないわよ…」
「は、はい…すみません」
ソフィリアは異様な光景に困惑していた。否、抱き着くアテラを払うことはせず謝意を述べる。
「どうやらご心配をおかけしたようですね、私は見ての通り大丈夫ですので顔をお上げください」
「よかった……!」
アテラは涙を振り払って、満面の笑みを浮かべる、不安を全て払拭した純粋無垢な笑顔を浮かべた。
「あと、ミラ様…考えていただけましたか?」
「ええ、私でよければお手伝いさせてください」
ソフィリアの努力は報われ、快諾する。ミラとソフィリアは熱い握手を交わした。
何十時間にも及ぶ長旅が今ここで幕を閉じる。
「それで、ミラはどうするの?」
「あぁ、ミラ様は私の部屋で引き取ることにしました」
あの日から約二日後、ソフィリアとアクアは再び顔を合わせあの日のことをゼクスを始めシードの面々に報告していた。
エリンの森の内情や、ミラのこと…そして悪魔が禁止された神器を扱っていたことなど。
「ていうか、ミラってスゴすぎるわ。あんな威力の魔法を独学で編み出すだなんて……敵に回したくはないわね」
「ええ…それとアクア様、この間は本当にありがとうございました」
「いいわよ、ていうかあんたが乗っ取られたのは私のせいよ…油断は禁物ね。ごめんなさい…」
弱々しいアクアを尻目にソフィリアは微笑む。
「あと、ロータスが“アウロラ”に出たいそうよ」
「本当ですか!?それならとても助かります」
ソフィリアは喜びを口にする。ただアクアは唇を噛み、忌々しそうな感情を目に宿す。
「でも、ロータスが出るなら私は出ない」
アクアはそれ以上は何も言わず、その場を後にした。
“アウロラ”まで残り22日。
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