第17話 悪魔のやり方
アクアはランツェを弧を描くように振りかざし、男の急所に命中する。
たった一瞬で勝負はついてしまう。これが神の実力であると、その場にいた全員に知らしめた瞬間でもあった。
「もう一回聞くけど、それどこで手に入れたの?」
転倒した男の額に槍を突き出し、冷酷な様で問いかける。
「ちっ……お前はシードの奴か?」
「質問に答えろ、それは本来ならば封印されているはずの神器だ」
「答えてお前はどうする気だ、俺を殺してそれで満足か?」
挑発的な発言を繰り返し、侮蔑的な態度を一貫する男に痺れを切らし槍を脳天へと突き刺す。
溢れ出る鮮血がその場の空気を一新する。荒れた川は緩やかに流れ、奇獣達の雄叫びはいつの間にか残響になり、消えていった。
「良かったのですか?聞き出さなくて」
「ふん、どうせ私が殺してなくてもこいつ自殺するつもりだったから別にいいのよ」
アテラは横たわるミラを抱き寄せ、脈を測る。
「うむ、生きてる」
「目が覚めるまで待ちましょうか」
「あれ、私は……」
今にも壊れそうなか細く、脆い声質、起き上がると揺れる繊細な葵色の髪、美しく知的な目鼻立ち。エルフ族の生き残りであるミラが目覚めた姿はまさに
憑かれていた“何か”が離れた後のミラはより一層美しく見える。
「お目覚めになられましたか、ミラ様」
「貴女方は確か、私を訪ねに来られた方……ですか?」
朧気ながらも記憶はあるのか、
「そうよ、でもあんたの悪霊倒すの大変だったんだから」
「悪霊……もしかして
「老土っていうんですね、あれ…」
「はい、数年前から私の体を占有していた悪魔の名前です」
あの男の名前は老土そして悪魔であることが発覚する。
悪魔というのは度々天界でも発見され、その都度処理に追われる
「悪魔ねぇ、それにしては弱かったわね」
「それはアクアが強すぎるだけなんじゃないのか?」
「ま、そうとも言えるわ」
「少しは謙遜してもいいと思うぞ…」
アクアとアテラの漫才のような会話が繰り広げられ、ミラは自然と笑を零した。
場が和んできたところで、もう一度本題へと入る。
「ミラ様、
息を飲み、ソフィリアの中で微かに緊張が走る。一度は断られたもののあれはミラ自身の判断なのか取り憑いた悪魔の判断のものなのか、不明瞭な点からもう一度だけ問いただす。
「……っ」
ソフィリアが一言目を発しようとした刹那、再び残虐極まりない巨大な死の鎌がアクアの方向へと牙を向ける。
「アクア様っ……!危ないっ!」
肩の先が擦り切れ、血が滲む。
アクアを押し退け、ソフィリアは傷を負った。必然、ソフィリアの体は今この瞬間から老土のものとなる。
「慢心して仲間が傷つけられるとはとんだ愚か者じゃのぅ」
真珠より輝かしい銀色の髪、冷徹で力の籠った紅色の眼、論理的で凍てつくような声音…全てがソフィリアであり、ソフィリアでは無かった。
これにはアクアも動揺し、平静が乱れてしまう。
「お前…どうして生きて」
「悪魔だからだけでは足りないか?」
ソフィリアの顔で、ソフィリアの声で、ソフィリアの体で邪智暴虐の限りを尽くす悪魔がここに体現する。
「もしやお主…心臓を動かしたのか?」
「くっくっくっ…愚かじゃ愚図じゃ、その可能性すら考慮できない……全く反吐が出る」
「ちっ……私がもう一度…!」
アクアが身を乗り出し、ランツェを取り出す。
「私にやらせてください」
考えうる最悪の状況の中、一人の少女がその場で名乗りを上げる。
エルフVS悪魔の戦いの火蓋は切られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます