第16話 禁じられた神器
エルフ族―聡明な顔立ちに長い耳を持つ。性格は穏やかで知的。
そして、最大の特徴は天界での魔法系統の礎を築いた第一人者だということ。
これがソフィリアが幼い頃に読んだエルフに対する記述の一部である。
「貴方がエルフだったのですね」
「ええ、そうですね。この長い耳でどちらにせよ察せることでしょうし」
自身の髪の毛を耳に掻き分けながら、冷酷な微笑を美しい顔立ちに刻む。
「あんた名前は?」
「私の名前はミラ…ミラと呼んでください」
少女は自身をミラと名乗り、張り付いた笑顔が微かに揺れた。ソフィリア達は一人ずつ軽い自己紹介を済ませ、本題へと話を進める。
「悪神との直接対決…ですか」
浮かない表情を露呈させ、ミラは押し黙る。
「もしも敗北した場合にはこの天界の全ての権利を明け渡す契約までしているので、どうしてもミラ様の力をお借りしたいのです」
“負けた場合に天界の権限は全て悪神に譲渡する”この文面は身の毛がよだつほど恐ろしく、絶対にあってはならない事態である。そのためソフィリア達は東奔西走し、対策を練っていた。
そんな中、冷ややかな口調で現実を突き付けられる。
「お断りします」
ミラの顔からはもう既に笑みは消えていた。
真顔にも近い感情のない表情。
ソフィリア達が生死を掛けてまで来たことは一気に無に帰すことになる。
ソフィリアはどこか過信していた部分があった、悪神に因縁のあるエルフ族なら味方になってくれると、心では甘えていた。だが現実はそう上手くは行かなかったため、余計に気分は沈み、思考は止まり続ける。
「理由を……聞いてもよろしいでしょうか」
「理由……ですか?私にそれを決める権利はないからです」
ミラの目は黒く染まり、森林の雰囲気は一転する。神秘的で美しかったはずの川は荒れ、奇獣達の雄叫びが後方から聞こえる。
「こ、これは一体……」
狼狽えるソフィリアを他所にアクアはミラへと距離を詰める。
「あんた、憑かれてるでしょ」
アクアの一言を引き金にミラの体からフードを纏い、禍々しい雰囲気を放つ老いた男が姿を現す。
男は愉しげに笑う。
「久しぶりの客人だ、よくぞここまで来れたな」
「それはどうも、でも用があるのはあんたじゃなくてミラの方なんだけど」
「あのエルフのことか、それは出来ないねぇ」
男は巨大な鎌を背に潜め、詰められた距離を少しづつ離していく。
「隠してるつもりなの?バレてるわよ」
「くっくっくっ…それはめでたいのぅ!」
男は巨大な鎌をアクアへと振り下ろす。
男が扱っているこの鎌は神器 アサシン。一度でも攻撃が命中すれば相手の体を乗っ取ることが出来る最強の代物である。あまりの強力さ故に使用が禁じられており、禁忌の神器に指定されている。
「あんた、それどこで手に入れたの?」
「聞いてどうする?お前は今私に命を狙われているというのに余裕じゃのぅ」
アクアはひたすら鎌を受け流し、避け続ける。
そしてゆっくりとゆっくりと回避の速度を遅延させる。そして、その隙を突かんとするばかりに決定的な一打を叩き出そうとする。
否、それはアクアの作り出した幻想。数ミリずらせば命中する、そんな状況を作り出すことによって相手は嬉々として自身の懐に入り込もうとする。言わば焦り、人は絶好のタイミングが来ると視野が狭くなる。その心理を使うことによって判断を大きく鈍らせ、ペースを乱す。
そして、アクアの反撃の狼煙が上がる。
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