第14話 絶体絶命
エリンの森。それは幻妖な雰囲気が漂い、行く先々は闇に飲まれ、不安や神秘に満ちている謎に包まれた森林である。
森に対し、様々な噂や憶測が飛び交っており、その中の“エリンの森でエルフは生きている”という噂を頼りにソフィリア達は足を進めている。
入ってみれば噂より奇妙でおどろおどろしい空間に仕上がっていることがよく分かった。風の音すら不協和音で、気の所為なのか誰かから見られているようなそんな感覚に陥った。
「アテラ様は以前、ここに何をしに来られたのですか?」
「あぁ、それはな…」
ソフィリアの質問にアテラは押し黙ってしまう。それ以上は詮索せず、ただ歩む。
当然、どこに何があるのかは分からないため基本的に感覚に頼ることになる。
「…かなり奥の方まで来た気がするのですが本当にいるのでしょうか」
「うーむ。噂…じゃからな」
お互い疲労感を感じ始めてきた頃、ほんの少し明かりが見える部分に辿り着く。
「少し休憩しましょうか」
「うむ」
他の場所はほぼ暗闇に近い環境であるのに、何故かここだけ明かりがあることに疑問を抱きつつ、目の前にあった丸太を椅子がわりにして腰掛け、休息を摂る。ここ最近の出来事を振り返るために目を閉じた。
数日に一回、状況を俯瞰し新しい考え方を生み出すためにソフィリアは精神統一の時間を設けている。これはその一環である。
「アテラ様、そろそろ行きましょうか」
「アテラ…様?」
二度呼び掛けるも、アテラからの返事は返ってこないため顔を覗き込む。
「ソフィ…どうやら余達は嵌められたのかもしれん」
初めはアテラの言うことが理解出来なかったが、徐々に理解が追いついていく。
入った時から見られているような感覚に陥った理由、それはここを居住としている最悪の奇獣に標的とされたことに他ならない。
奴らの名前は“ウルファ”凶暴な性格をしており、獲物を見つけては鋭利な牙と爪で襲う。
「明かりがある所に誘導されたってことですか?」
「多分そんなとこ、後ろは頼んだぞ」
アテラはすぐさま臨戦態勢に入り、自身の手を振りかざし、言い放つ。
「“八岐大蛇”」
刹那、アテラの足元に描かれた円から八つの頭を持つ凶暴な大蛇が姿を現す。
大蛇は辺りを一望すると、八つの頭を器用に動かし数十匹の奇獣と交戦を始めた。
「アテラ様…これって」
「あまり使いたくはなかったが、仕方がない。ソフィリア、脱出ルートは確保できそうか?」
切羽詰まった状況の中、ソフィリアは思考を巡らせる。何十匹にも及ぶ奇獣“ウルファ”が絶えずこちらへと迫ってくる、今はまだ大蛇がいることで何とかなってはいるがいつまで持つかはアテラにも分からない。
徐々に近付いてくる奇獣を魔法で跳ね除けながら、突破口を探る。
「アテラ様、なにか気づいたことは?」
ソフィリアは氷属性の魔法を扱い、自身の周りを巨大な氷塊で固める。この氷塊も持ってあと三分と言ったところだろう。ウルファは自慢の牙で今も氷塊を砕いている。
「実はな、ずっとおかしいと思っていたんじゃ…前来た時とは違ったここの空気感に」
「やはり、そうでしたか…アテラ様が平然な顔でいらっしゃったので普通かと思ってましたよ」
「神秘的な空気感は前と同じなんじゃが、それとは違う。異様で異質な何かがある」
アテラだけが感じる空気感にソフィリアはあることに気づいた。それは少し前、翼竜騎士団の団長であるガオウも似たようなことを言っていたのだ、その時に導かれた答えは…
「つまりこれは、結界術…ですか?」
「あぁ、そういうことになる…」
「アテラ様は神獣のケアと、ここのガードをお願い致します。私はこの結界を解くことに集中します」
「分かった、出来る限り耐えよう」
ソフィリアは自分の手を翳し、結解を試みる。今回はかなり高密度の結界であることが分かったため、詠唱を始めた。
「密なる力よ、その身をもって解き放て」
手には強大なゼーレが宿り始め、ミシミシと結界が悲鳴を上げ始める。
否、ソフィリアの力は及ばず結界が壊れることは無かった。
迫り来るウルファに、解けない結界…ソフィリア達は絶望に立たされていた。
祈ることしか出来ない状況に、神々しい光の影がその場に降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます