第12話 新天地④
ガオウがその場に現れ、さっきまでとは全く違う異様な雰囲気が流れていた。男が発する厳格な雰囲気とガオウの燃え上がる闘志が入り乱れ、混濁する。
その場にいたソフィリアは密かに息を飲んだ。
「既にソフィリアからは話を聞いている、我の相手は君か」
ガオウは男と同じく携帯している“聖剣”を手にかけ、朱塗りの瞳で見つめる。
「ほう、そちが某の相手となる騎士か、早速だが手合わせ願いたい」
「ああ、もちろん。我も訓練を抜け出してきているからな手短に終わらせたいところだ」
お互い目を使いしのぎを削る、もう既に戦いは始まっているのだとその場に知らしめるように長く見つめ合った。
ソフィリアはその空気感に飲まれるばかりで、平静を保っているのがやっとであった。
アテラはニマニマと二人を見合い、どこか楽しげな雰囲気で混濁した空間の中に一石を投じていた。
戦いは突然始まる。ガオウは勢いよく、先程ソフィリアが受け取った刀を取り出し切りつける。先手必勝、この言葉がより似合う形での先制攻撃を繰り出した。
否、ガオウの刀を完璧な間合いで男は受ける。その様は滝を昇る鯉のように美しく、鮭を掴む熊のように力強かった。
お互い一歩も譲らぬ、刀と刀の攻防戦が繰り広げられる。そこが室内であるとは気にもとめず、自由自在に刀を振るう。
乱暴だが奥ゆかしさがある男の刀と騎士の紡いできた伝統を感じさせ、そこに自分自身を投影するガオウの刀。会話はそこには必要ない、ただ刀の音が鳴り響く真っ直ぐな剣戟が家中を纏っていた。
そして、勝負は決まる。ガオウの剣筋が男の衣服に刻まれ、男は頬を緩める。
たった一瞬の差であった、ちょっとした隙をガオウは見落とすことなく突いた。
刀を下ろし、ガオウの実力を心から歓迎するように、握手を求めた。
「某の負けだ、そちの剣…恐れ入った」
「貴様も見事であった、こんなに心地の良い戦いは久しぶりだったからな」
剣戟が終わり、ソフィリアはほっと息を吐いた。アテラは満足そうに頷き、目を伏せた。
「ひとつ聞きたいことがある、ガオウ…何故そちは持っている剣を使用しなかった」
「簡単なことだ、我はここに来た以上同じ土俵で戦うと決めていたからな」
ガオウは笑みを浮かべ、刀を下ろした。
アテラの方向へ向くと、頭を下げる。
「アテラ様も、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「いやいや全然良い、こちらとしては素晴らしい戦いが見れて眼福じゃったしな」
アテラは大きく笑い、目を細め男の方へと視線をやった。
「それじゃあ約束といったところか、宗隆…分かっているな?」
「無論、負けたのは某だ。ソフィリア殿、某も力を貸そうぞ」
男はソフィリアに握手を求めた。
「はい、感謝致します」
男の手のひらはごつく、その道を極めた者なのだとソフィリアは容易に理解することが出来た。“アウロラ”へ向けての不安や恐れが少しだけ抜けていくのを肌で感じる。
「それと、聞きそびれていたのですが…お名前は?」
男は薄紅色の眼を輝かせ、軽く笑う。
そして力強く名乗りを上げた。
「桜海宗隆、宜しく頼む」
“アウロラ”まで残り26日
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