第11話 新天地③


男のいた民家は畳が敷きつめられ、中までも和を感じさせられるようなニホン特有の雰囲気が漂っていた。

畳の独特な匂いがソフィリアの鼻を刺激する。


「茶でも入れよう、とりあえず座って待っててくれ」


「お気遣い感謝致します」


「むねたかの入れる茶は絶品じゃ、楽しみにしておれ」


何故か鼻を伸ばし、薄い胸を張っているアテラに失笑しつつも、ソフィリアは男を常に見張っている。

男の敵意に勿論気づかない訳もなく、どう懐柔すべきかと思考を練っていた。


「それで、某に話というのは」


お茶に舌鼓を打ちつつ、男から話を切り出してきた。


「はい、実はですね……」


“アウロラ”へと至った経緯そして概要等までも包み隠さず明かした。

男の反応は良くも悪くも無表情で無感情、顔色ひとつも変えず話を聞き入っていた。


「なるほど、だがひとつ疑問がある。そちが某に協力を求める理由は?」

「この世界はたくさんの強き者達が集っている、それらに比べれば某なんて小鳥と同然よ」


「いえ、全くもってそんなことはございません」


自虐的な対応に対しソフィリアが両断する。


「先程の剣技、見事でした。貴方ほどの力を持つ者は天界でも稀有な人材です」


ソフィリアは嘘偽りない胸の内を明かした。

実際、今もソフィリアは男の剣技に魅せられたことにより胸の内が弾み踊り、奥底にある闘志が燃えている。


「某はここ以外の情報は持ち合わせていないからな、そちが言うのなら納得しよう」

「そして、そのアウロラとやらの参加もここで表明しよう」


予想外に勧誘が滞りなく上手くいったことに驚きつつも、同時に安堵感が体を駆け巡る。

これで最強のサムライが味方に加わったことでより万全なものなったと思った矢先。


「ただし、条件がある」


安堵感が体から抜けていくのを肌で感じ、再び場は静寂に包まれる。

ここまで静観を通していたアテラもわざとらしく音を立て湯呑みを台に置き、ソフィリアに目配せをする。

一筋縄ではいかなかっただろうと言わんばかりの表情でソフィリアを見つめていた。


「条件ですか、可能な限り応えましょう」


気圧されつつも、ソフィリアも自前の眼光の鋭さで応える。

男は壁に掛けてある刀を取り出し、ソフィリアに手渡した。


「某と刀で勝負し、勝ったら協力しよう」


自分の刀を突き出し、男は堂々と言い放つが、無論ソフィリアに剣の経験はない。

ソフィリアは暫く押し黙り、思考を巡らせる。その間アテラは男に目をやり、静寂を突き放す。


「さすがにそれは意地悪すぎるんじゃない?」


「意地悪…か、だが生憎と刀以上に信用できるものを某は知らない」


「ふむ、それではこうしよう。ソフィリアは主が思う最強の剣士をここに用意せよ」


「…!」


「ソフィリアは天界の管理職を務めておる、最強の剣士の一人や二人呼び出すのも容易であろう?」


「それならそれで納得しよう」


アテラの折衷案はかなり無茶を言っているが、実際ここ最近“聖騎士”と呼ばれる最強の騎士と顔見知りになっている。

ソフィリアはこの無茶を通すことに決めた。


「分かりました、少し時間をください」


天界で使用される離れていても会話が出来る丸い形をした神具 ミュニスを使用し、ある騎士との連絡を図る。

結果は快諾し、こちらへ来てくれるとの報告が入った。そして数十分後、民家の戸が拍子良く鳴った。


戸が開き、入ってきたのは灼熱の赤い髪を靡かせ、一切の淀みのない赤眼を持つ“聖騎士”の名を関する美青年がその場に現れる。


「ガオウ=ヴィルトゥス、今ここに到着した」

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