第4話 翼竜騎士団


天界の中にも数多の都市が存在している。その中で最も発展している都市“ミュルテン”、大多数の種族はここで商いや他種族との交流に励んでいる。

様々な商会、歓楽街が連なっているがその中でも一際目立つ、白を基調とした煌びやかで荘厳な建物、これこそが翼竜騎士団の本部である。


「にしても、遅いですね」


今日はここで待ち合わせすることをあらかじめ騎士団長に伝えてあるはずだが、やけに遅い。


太陽から無慈悲に注がれる熱に辟易していた頃、本部の重々しい扉が開いた。

中から美しい赤髪を持つ女の人が出てきた。鎧を纏っている為、騎士であることは間違いない。


「すまない、我が長は緊急の案件で少々席を外していてな」


ソフィリアとはまた違った目つきの鋭さ、そこには溢れ出る自信、精神力の強さなどが見て取れた。


「そうなのですね、帰ってくる目処はありますか?」


「あいつの事だ、すぐにでも帰ってくるだろう」


不意に太陽が一段と眩しく感じた事に気付いた。


「遅れたようで申し訳ない」


太陽の後光を背に、彼女と同様の赤色そして少し黒色の入った髪が揺れる。


「いえ、お忙しい所ありがとうございます。それでは早速…」


「どうぞ、中へ」


赤髪の女に中へと招かれ、足を踏み入れた。

本部の中は外装に見合う煌びやかな空間に仕上っている。

沢山の部屋が連なっている中、そのまま応接室へと向かった。


「我が名はガオウ=ヴィルトゥス。翼竜騎士団の団長を務めており、ヴィルトゥス家十三代目聖騎士である。以後よろしく頼む」


ガオウは赤色の眼を光らせ、握手を求めた。

そして赤髪の女もハッとしたように咳払いをした。


「名乗り遅れて申し訳ない、私の名はケシャ=ヴィンクルム。翼竜騎士団の副団長であり、ヴィンクルム家十三代目聖騎士である。よろしく頼もう」


同じくケシャもガオウと同じように握手を求めた。


「私はソフィリア、こちらこそよろしく頼みます」


お互い共に握手を交わし、ソフィリアは眉をひそめた。


「早速ですが、ガオウ様、ケシャ様。貴方々の力をお借りしたい」

「二十七日後に迫った悪神との戦い“アウロラ”に天界の命運がかかってるんです、お願いします」


ソフィリアは深々と頭を下げる。

この二人が参戦するかしないかで戦いに大きく差が出てしまう。


悪神ナイトメア…か」


ガオウは何か思い当たる節でもあるのだろうか、どこか虚ろな目でソフィリアを見つめていた。


「私達聖騎士にとって悪神ナイトメアとは切っても切り離せない関係性…悲願とも言うべきか」


「悲願と言うと、お聞かせ願いたいです」


口を開いたケシャを遮り、ガオウが話し始めた。


「今から数千年前、騎士達は悪神ナイトメアとの戦いに日夜明け暮れていた。当時の天界にとって悪神ナイトメアという存在は脅威的な強さであり、騎士が何人死んだかも分からない」


語ったのは遥か昔の英雄記、などでは無いことをソフィリアはガオウの口ぶりから察した。


「そんな中で登場したのが我々の職務である“聖騎士”だった。選ばれし三人の、悪神ナイトメアと対等に戦うことが出来る唯一の騎士だった」

「そうだな、対等に戦うことが出来るだけじゃダメだったんだ」


「最初こそ悪神ナイトメア達に痛恨の一手を打つことが出来て、天界は希望に満ち溢れていた。ただ日を追う事に悪神ナイトメア達は聖騎士の実力に適応し、それを上回る強さを誇った」

「そして、聖騎士は負けた」


ガオウは自身の拳を机に打ちつけ、苦渋の表情を浮かべた。

ケシャも同様に息を殺し、唇を噛んだ。


結局悪神ナイトメア達の討伐は神々も君臨し、対応できるようにはなった。ただ、彼らのことを思うと胸が締め付けられるように痛い」


本来、騎士達が役目を全うすることが本望であろう悪神ナイトメア討伐。それが叶わないというのは無念以外の何物でもない。

ガオウの性格上、感受性が高く、また正義感が強い。ただそれが今回のアウロラにとっては最高のスパイスとなる。


「我々で良ければいくらでも手を貸そう。悲願を達成するためにも、天界の民を守るためにも」


ガオウは立ち上がり、再び握手を求めた。

ソフィリアはそれに応じ、目を見合せた。そこには確かな意思が宿ってる。


「私も同じ気持ちだ、もちろん協力させてもらおう」


「非常に心強く、凄く助かります。ただ一つ疑問に思ったことがありまして」


ケシャは首を傾げ、その意を問いただした。


「聖騎士は全部で三人いると聞きました、ですが残りの一人が見当たらないのですが」


ソフィリアの素朴な疑問にガオウは神妙な顔つきで再び口を開く。


「ユナを、ユナ=プレンシバレンツを宛にするのはやめといた方がいい」

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