私の有意義な消し方。

むぎ

第1話

 ふと、この世から消えてなくなりたいと思うときがある。

 消えるというのは簡単のように見えて、実際に人間に与えられた手段はたった一つ。自ら死を選ぶことだけだ。

 そんなときに考えるのはいつも、私が死んだ後の世界のこと。

 例えば今死ぬのなら、自身の執筆する小説の続きは描かれない。未完の作品に心は揺れ動かされ、仕方なく書き終わるまで死ぬのは延期だ。

 完結させ世に送り出し、満足する。なら今死ぬのはどうだろうか。......あぁ駄目だ。インターネットに人には見せたくないアカウントを浮遊させたままだ。存在していた形跡すらも消すまでは延期だ。

 何度死後の世界を描いたところで、私はその筆を折ってばかりなのである。

 死んでしまったところで、消えたいという願望は叶うことはない。死はあくまでも消えるという過程の中に存在するだけだからだ。結局行き着くのは、生きたいという無様で滑稽な願いだ。何の変哲もない平凡な日々を愛しているからこそ、今も私はここで息を吸っている。

 消えたいのに消えたくない。それはあまりに矛盾していて、自己中心的な嘆き。どれだけ自分が平凡さを愛していようが、どうしようもなく消えたいと願う日々は続く。

 消えるというのは難しいことだ。それは呼吸を繰り返す度に難化され続け、自身をこの世に刻み続ける限りは簡単には達成できない。

 死にたいわけではなく消えたい。けれど消えるという現象に一番近いものが死である以上、それを過程とする他ない。そうは言いながら、一時的な感情で死を選ぶというのもできやしない。死とは、この世で最も恐ろしいことだからだ。

 結局、永遠と私を消すことはできないまま、今もこうやって自身と向き合いながら液晶に指を滑らせ文字が羅列していく。

 私の有意義な消し方。きっとそれは、この執筆する手を止めない限りは見つからないだろう。

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私の有意義な消し方。 むぎ @Komugimugi777

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