解説(言い訳) ②
開港の夏、横浜の夏。
横浜開港記念日って六月二日なんですが、それは陰暦です。安政六年の六月二日。1859年だと7月1日です。梅雨のさなかですが晴れていたとか。
そんなわけで横濵村は開港場として変貌してしまいました。寂しく感じつつもワクワクを隠せない弁天ちゃんはお散歩に励みます。
以前会った中山弥助くんが成長し、異人さんと挨拶していました。初恋の幼なじみは戻りませんでしたが、頑張っています。
実際の中山家は横濵村内に広く土地を所有していたので、まずは賃貸業から始めて質商、両替商などに事業を拡げていきました。
相手として出てきたロレイロは、イギリス商人エドワード・ローレイロ。横浜で早々に西洋野菜(チシャ・パセリ・芽キャベツなど)の栽培を実験し成功させています。たぶん土地の賃貸とか肥料の買い付けとかで中山家に用があったんです。
そして弥助を呼び止めた男は福沢諭吉がモデルです。横浜を視察してオランダ語じゃ駄目だと痛感し、英語を学ぼうと志したと記録されています。
ただこの頃、英語を使える日本人なんて貴重な上に、みんな多忙過ぎてなかなか教えてもらえなかったとか。そりゃそうですね。
幕末には次第に英会話本なんかも出版されていきます。内容的にはかなり怪しい物も多いのですが、少しずつ精度が上がっていきました。『幾ら?』は『はまち』、も載っています。魚じゃないです。how much?
弥助が紹介したオランダ商人キニッフルは、プロイセン出身のルイス・クニフラー。プロイセン、つまりドイツ人なのですが、オランダの保護下でオランダ商船に乗り来日していました。
横浜ではキニッフレルなんて呼ばれていましたが、そう打ち込むと予測変換があまりよろしくないことに。福翁記ではキニッフルなのでそちらに準拠しました。
さて新たにやって来た僧侶、玉宥。彼は実在の十九世住職で、増徳院中興の祖となります。時流を読んだ方だと思います。作中ではこの先も頑張りますよ。
まずは薬師堂をと言われて傷ついた弁天ちゃんですが、篤い信仰を受けていたのは本当です。
彼女の名誉のために補足しますと、神奈川台場建設に携わった石工・久兵衛は仕事の無事の御礼でしょうか、1864年に手水石を増徳院に奉納してくれました。それは今も元町厳島神社に残っています。
お詣りした時に写真を撮りました↓
https://kakuyomu.jp/users/yamadatori/news/16818093077798298203
現在も史跡で観光地で現役の墓所である山手外国人墓地。元は増徳院の境内墓地から始まりました。
檀家さんの間にねじ込む形でしょうか。後に隣接地を加えて広くなりますが、最終的には日本人墓地の方が数キロ離れた丘に移転しています。
開港により周辺では突然の人口爆発が起こったわけですが、そうすると当然死者も激増するんですよね。個別の寺で受け入れきれず、丘の上に広ーい日本人墓地が確保されました。出口戦略と言ってもいいものか……?
1874年(明治7年)には居留地北西の野毛山からつながる丘に久保山墓地、1877年(明治10年)に山手から続く根岸の丘に相沢墓地が設置されました。
増徳院が関わっているのは相沢墓地。現在は根岸共同墓地と呼ばれていて、移転した増徳院も近くにあります。
こちら現役の霊園なのですが、古びた墓が並び、端には崩れた墓石が積まれ、なかなかの異界っぷりです。
近くには中華義荘という中華系移民の墓所もあります。はじめ外国人墓地にまとまっていたものを、1873年(明治6年)に移したそうです。
外国人墓地にはその後どんどん埋葬者が増えていきます。攘夷の犠牲となった最初のロシア人二人は、今も山手に眠っています。
お墓ですけど、道路から見える所は明るい雰囲気ですよ↓
https://kakuyomu.jp/users/yamadatori/news/16818093077798455606
元町の上につらなる山手の丘は、今は高級住宅地です。でも作中ではただの里山。今後外国人居留地として洋館が建ち並んでいくのですが、まだ鳥の楽園です。
おかげでとにかく肉を食べたい在留外国人が狩猟に入ったとか。いや、それ楽園じゃなくなるよね。
新鮮な肉が手に入らない生活はとても辛かったようです。食文化がまるで異なりますからねえ。当時の横浜は基本が魚で、少々の鳥、ごくたまに猪ぐらいのものでしょうから。
開港半年ほどの頃、農家で役牛として飼われていた牛を在留商人たちが共同購入し、少々の肥育の後に解体、焼肉パーティーをした記録があります。どれだけ牛肉に飢えていたのよ。きっと美味しく噛みしめたことでしょう。
その匂いを弁天ちゃんが嗅ぎ付けていたら、よだれを垂らしたか臭いと思ったか。どっちだろうなあ。
* * *
清覚を穏やかに見送って、あっさり微笑む弁天ちゃんです。まあ人の命などそんなものなので悲しむものでもありません。
まだまだ異国の物を知りたくてたまらない弁天ちゃんは、これからも宇賀くんを引き連れてお出かけしますよ!
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