第15話「圧倒的陽オーラ」
僕の瞳は、金髪ボブカットの女の子を捉えていた。ぱっと見た感じは少しだけ年上のように見える、多分大学生くらい。
主張の激しいカラフルな柄シャツがうるさく感じないのは、スタイルの良さが理由だろう。すらりと伸びる足を包み込むようなスキニーパンツといい、遠くからでも体のラインが分かる白シャツといい、男子高校生には少々刺激が強すぎる。
自分が似合う服装を分かっていての、あのボーイッシュファッションなのだろう。
イケイケオーラがここまで漂ってきて、天谷さんとは別ベクトルの話しかけづらさがあった。
今まで接したことのないイケイケお姉さんオーラに圧倒されて、僕は近づくことが出来ない。
僕の心情を見透かしたように、もくずが口を開く。
「目代くん、これは危険な香りがするよ」
「ああ、僕もそう思う」
「これはネットでよくある美人局ってやつかもよ?」
「かもな……そうじゃなくても何かしらの勧誘を受けても不思議じゃないな」
高額なツボを売りつけられたり、変な効能がある水を勧められたり、アートという単語では片付けきれないような絵画を紹介されたりするかもしれない。
うっひょー、美女だ……ラッキー! なんて、インターネットに毒された僕の頭じゃ考えられない。
深呼吸をし、呼吸と心を整える。
今から僕は男子高校生の見嶋目代ではなく、汐見もくずの筆頭オタクだ。彼女のためなら何だって頑張れる。
意を決して、派手シャツお姉さんに声をかけた。
「あの、すみません。〈右向けサムネ〉さんで間違いないですか?」
「あ、そうです! 〈切り抜きたくて〉さんですか?」
「は、初めまして。〈切り抜きたくて〉です」
「わ~こちらこそ初めまして。サムネこと〈右向けサムネ〉です~」
いきなり話しかけられても戸惑う様子もなく、にこやかに対応するコミュニケーション能力に圧倒されそうになる。
挨拶だけで伝わってくる圧倒的陽のオーラ。キラキラした表情からはマイナスイオンでも放出しているのかと疑うくらいに空気が輝いている気がした。
「凄い若いですね! もっとおじさんが来るかと思ってました」
「僕もまさか女性が来るとは思いませんでした」
怖気づくな、冷静でいろ。
最近まで絡んでなかったとはいえ、交流していただろ。全くの見ず知らずの人物ではないのだ。
もくずが紹介していたイカれたサメ映画を同時視聴し、メッセージで阿鼻叫喚を一緒にあげた中じゃないか。
「僕が言うのもなんですけど、よくあのDMで会ってくれましたね」
「だってあの〈切り抜きたくて〉さんからですからね、普通に理由も気になりますし」
「〈切り抜きたくて〉って信じてくれたんですか?」
「だってあんなに初期の配信から切り抜いているんですもの。信じますよ~」
僕のもくずへの熱量が他者に対しても伝わっていることを嬉しく思いつつ、表に出し過ぎないように押し殺す。
「さっそくですけど、色々語りたくて」
「そういう用件で集まりましたね」
「なので、どっかカフェでも入りませんか?」
幸いなことに上野には腰を落ち着けて話が出来るようなカフェが沢山ある。
調べてきたお店を提案しようとスマホを開いた時だった。
「それよりも、せっかくですしお出かけしましょうよ」
あまりに想定外の言葉が、サムネさんから投げかけられたのだ。
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