第16話「サメがいない園」
「え?」
完全予想外の提案に間抜けな声が零れ落ちた。きょとんとした顔をする僕を見て、サムネさんはくすりと大人っぽく笑う。
「上野に来たんですよ? パンダの一匹くらい見ないと損ですよ。あ、もしかして動物アレルギーとかあります?」
「いえ、ないですけど……」
「よし、じゃあ行きましょう~」
軽い足取りで、どんどん公園の奥へと進んで行く。流れるようにチケットを買い、動物園のゲートをくぐった。
「何か見たい動物います?」
園内に設置されている大きな看板を前に、サムネさんは指を差す。
マップを見た感じ、上野動物園は大きく東と西に分けられているようだ。ゾウやトラ、ゴリラ、キリンなどの動物園らしいラインナップが揃っていた。
まさか動物園に来ると思ってもいなかったから、見たい動物なんてパッと思いつかなかった。
う~む、見たい動物かぁ。水族館じゃないから、もくずが好きなサメはいないしな。なんて考えを巡らせていたが、ある動物が目に留まる。
「クマが気になります」
「もくずちゃん好きですもんね、クマ」
「配信で『海のサメ、陸のクマ』って言ってましたもんね」
「『クマは森じゃない?』ってツッコミありましたよね」
「『森のクマだと童謡じゃん!』って主張しているのが本当に可愛くって……!」
ブブッとポケット内のスマホが震えた。その時、僕は自分の声が大きくなっていることに気が付いた。
やばい、こんなところで大きな声で熱弁してしまうとは……節度のないオタクは嫌われることは分かっているし厄介だと知っているのに。
羞恥で顔が赤くなる僕を見て、サムネさんはまたも大人っぽくくすりと笑う。
「推し語りはこのくらいにしておきましょうか。後で沢山出来ますし」
これが自制心が効く大人か……この余裕と会話のブレーキをかけるタイミングは見習うべきであろう。
サムネさんは園内マップに向き直り、視線を右往左往させる。
「わたしはやっぱりパンダは見ておきたいですね~せっかく上野に来たのだし!」
「パンダって結構奥にいるんですね」
僕が見たいクマは入り口から近い東園、サムネさんお目当てのパンダは橋を渡った西園にいるらしい。
「そしたら色々見つつ、向かいましょう!」
突発的な動物園イベントに、僕は戸惑うしかなかった。
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