第12話「新たな切り口」
あの難関不落の城をどう落としたものかと考えを巡らせた。
僕の大失言のせいで普通に仲良くなるのは不可能になってしまった。孤高の存在である天谷さんとの距離を縮められる切り口などない。彼女と親しくしている人間があの学校には存在していないのだから。
僕は一人、自室で考えを巡らせる。いや、デスクトップにふよふよ漂う人魚姫がいるから二人が正しいかもしれない。
「あー、どうしようかなぁ」
「めげずに汐里に話しかける?」
「門前払いされるのがオチだよ」
せめて彼女をよく知る人物がいれば、それこそネットの繋がりでもいいんだけど……あ、まてよ?
ある一人の人物が思い浮かんだ。
SNSサイトである【ツブヤキ】を開く。
「何調べてるの?」
「〈サムネさん〉って覚えてるか?」
「あー、私にサムネイルの作り方を教えてくれた人! 覚えてる覚えてる!」
初期のもくずのサムネイルはよく言えばシンプル、悪く言えば文字だけのものだった。
いかに人の目を引くかが重要であるVtuver戦国時代において、サムネイル映えしていないのは大きなハンデであった。
そんなもくずに、目立ちやすくポップなサムネイルの作り方を教えたのが〈サムネさん〉なのだ。
「ソフトの使い方とかおススメのフリー素材サイトとか教えてくれたな~」
「その人がまだ活動してないか気になってな」
「連絡とってどうするの?」
「どうやって仲良くなっていったか聞きたくてな」
「それ、私に聞けば良くない?」
「当人の感情じゃなくて、他からの視点が欲しいんだ」
「うぅむ。そういうことか……」
もくずは少し不服そうな顔をする。むくれた顔を眺めていたい欲を抑え、ネットの海を捜索する。
〈サムネさん〉とはファンのみで構成されたメッセージアプリでよく話していたのだが、もくずが失踪してからは殆ど連絡を取っていなかった。
「ハンドルネーム覚えてる?」
「確か〈右向けサムネ〉とかじゃなかったっけ?」
「……この人か?」
キーボードで文字を打ち込み、アカウントを検索する。可愛らしいミニキャラのアイコンが出てきた。
メディア欄には様々なVtuverのサムネイルが貼られていた。どうやら活動はしているようだった。
繋がりが薄くなったとはいえ、まだVtuverコンテンツに触れていることを嬉しく思った。
「活動してるみたいだね~」
「良かった」
僕は脳内で考えていた文章をダイレクトメッセージに書き落としていった。
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