第6話「人魚姫の正体」
僕の脳内で導きだされた答えは一つだった。
「疲れてるのかな……」
「今まで寝てたしバッチリでしょ! ナニカに憑かれてるかもしれないけどね~」
この独特な言い回し、もくずそのものだ。だからこそ、ありえないのだ。
「変なウイルス入れてたのか……アンストしなきゃだな」
「わー! 待って待って、ストップ! 消さないで~」
「今のAIは優秀だな、そういう機能もあるのか」
「違うって~私はそんな作り物じゃないよ!」
「今それを確かめるから」
ザッと怪しいファイルがないか確認してみたけれど、それらしいものは見当たらない。変なページをクリックした覚えもない。
もくずは困惑する僕を見て、ふふんと満足げに胸を張る。
「ほら、なーんにも変な物はインストールされてないでしょ?」
「犯人は、自分の身の潔白を口にするんだ」
「本当だって~その証明に、なんでも質問していいよ! まあ、私のことだから分からないことなんて一つもないけれど?」
ドヤァッと根拠のない自信に満ちた表情は、僕が見続けていた配信とそっくりだった。それを見ただけで僕の全細胞が喜びの悲鳴を上げているが、簡単に揺らいではチョロいと思われてしまう。いや、もう遅いかもしれないけれども。
まぁいいや……とにかくこの目の前にいる子が、もくずかどうかを確かめることが先決だ。
「好きな映画は?」
「シン・ジョーズ!」
「何アレルギー?」
「スギ、ヒノキ!」
「最後に観た映画は?」
「『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』!」
「最近キてる映画のジャンルは?」
「クマ映画~!」
「じゃあ、五歳の時に怖すぎてちびりかけた映画は?」
その質問を聞いたもくずは、わなわなと震えて視線をぐるぐるさせた。目に見えて動揺しているのが分かる。
「え……? それ、配信で言ったっけ⁉ 嘘ウソうそっ! なんでそのこと知ってるの!」
「今僕が考えた作り話だけど、本当にあったの?」
「なにそれ、私にカマかけたな! あ~、もう恥ずかしい……」
真っ赤な顔を隠すように両手で覆うがもう遅い、僕の脳内にはバッチリスクショ済みだ。いやぁ、満足満足……じゃなくて。
「本当に汐見もくずなの?」
「そうだって言ってるじゃ~ん」
「そもそも、君はなんなんだ? なんで、もくずの姿をしているんだ?」
「私は汐見もくずだって。配信したい、汐民の皆とまた一緒に過ごしたいって思念体みたいなものかな~ガワは勝手に拝借してるけどね」
「なんで僕のパソコンの中にいるの?」
「私のこと、忘れないでいてくれたから」
慈愛に満ちたような表情で、もくずは答えた。
「忘れないリスナーは他にも沢山いるだろ」
「君だけは、ずっと切り抜いてくれていたから。皆に『忘れないで』って発信し続けてくれているから」
「そんな大層なものじゃない。ただの自己満足だ」
いつまで経っても好きな思いが消えなくて、そんな思いの人たちと共感したくて、ひたすらに繋がりを求めていただけだ。
「だから、褒めて貰えるようなことじゃない」
「もう、素直じゃないな~」
「で、なんで僕に会いに来たんだ? まさか何の用事もなくってわけでもないんじゃないか?」
「お、鋭いね~さすが筆頭リスナー! 実は目代くんにお願いがあって」
「もくずが? 僕に?」
筆頭リスナーという響きに優越感を感じてしまうが、今はそちらに気を取られている場合ではない。
僕からお願いしたいことは沢山あれど、彼女から何を言われるのか皆目見当を付かないからだ。
もくずは一呼吸を置き、僕の方をじっと見た。その瞳はエメラルドのように深く魅惑的だった。
意を決したように口を開く。
「私の復帰、手伝ってほしいの」
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