第5話「衝撃の再会」

 家に帰ってもWe tubeを開く。

 パソコンを起動し、デスクトップと向かい合う。ここからは見嶋目代ではなく〈切り抜きたくて〉としての時間が始まるのだ。


 学校でリスト化していたⅤ達の面白ポイントをかき集め、繋ぎ合わせて、一本の動画にしていく。


 登録者や同接が少ないVを知るきっかけにでもなれたら良い。

 そして、もくずが転生してるんじゃないかって淡い期待を抱いている。ガワこそ違えど、生きているって知ることは出来るんじゃないかって。


「今日も、それらしきⅤがデビューしてたりはしないな……」


 もくずがいなくなってから一年が経過した。

 邪な思いから始めた切り抜き動画制作も楽しくなってきたが、もくずと同じ熱量で推せるようなⅤと巡り会うことは出来ていない。

 未練がましくも、僕は汐見もくずの切り抜き動画を週に一度公開していた。まだ覚えているよ、応援している人はいるよって伝えたくて。

 本人が見ているかは分からない。けれども、汐見もくずというVtuberがいたことを刻み込みたかった。


「なんで引退しちゃったんだろ……」


 実現することのない夢が口から零れ落ちた。上体を起こしているのも億劫で、重力のままに机の上に突っ伏す。


「休止だったらまだ希望があったのにね」

「本当だよ、しかもいきなりなんて……」

「ねー、残されたリスナーの気持ちも考えないとね」


 こんなに僕の考えを分かってくれるなんて良い声だ。しかも、僕の推しとそっくりときた。なんて幸せな天の声だろう。

 しかし、こんな配信音声なかったはずだが……僕が作り出した幻聴か?


「また配信しないかなぁ」

「してほしいよねぇ、私も同じ気持ちだよ」


 ん……私? ちょっと冷静になれ、僕。一体誰と会話をしているんだ?

 確かめるべく、バッと顔をあげた。

 驚くべきものが、僕の瞳に刻み込まれる。


「うわぁ、びっくりした。突然どうしたの?」


 デスクトップの中に、ピンク髪のツインテールの女の子がいた。星を散りばめたようにキラキラ輝く浅葱色の瞳を大きく見開き、ぎょっとした表情を浮かべている。


 僕はその女の子をよく知っていた。

 だって今日まで欠かさずに見ていたんだから。


「もくず⁉」

「夢見る汐見る人魚姫~、汐見もくずです。こんもず~」

「こんもず~……じゃなくて! え、何……夢?」

「夢じゃないよ、現実だよ。リアルリアル! 正真正銘、私は汐見もくずだよ~」


 引退したはずなのに、どうしているんだ。しかも僕のデスクトップ画面に?

 会えるわけがない、だって彼女は引退したのだ。

Ⅴtuberとして死んだのだ。


 ネットの海から上がってしまったはずなのに、どうして……?

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