愛しい君と蝉時雨

 はぁ~、蝉たちが必死になって唄っているよ。

 短い夏を惜しむように、自分たちのささやかな一生を謳歌するように。

 本当に時雨とはよく言ったもので、蝉の鳴き声が全身に降り注いでくるよ。


 8月葉月はづきになったよ。

 連日、「37度だっ!」「38度だっ!」という体温を上回る気温のアナウンスにほとほと呆れているよ。

 注意しておかないと『40度!』なんて声も聞こえてきたよ。

 全く、君と一緒にいた頃は『32度』と言われただけでゲンナリしていたのに…もう、笑うしかないよ。


 閑話休題

 くどいようだけど、君の母校はほんっと~にイベントが多い学校なんだね。

 まさか8月12日お盆前に登校日を設定した上に、校内で盆踊り大会を始めるとか…どれだけ趣味なんだい?

 っとにぃ、前週には町内夏祭りに駆り出されてオオゴトしたのに、立て続けにお祭りが続くと、肉体もお財布もヘトヘトだよ。


 まぁ~ね、学校行事という事なら参加せざるを得ないけどね。

 当日の生徒達は、朝から浴衣姿で通学してくる…とか、良いのか?こんな事で!

 もっとも、僕も人のことは言えない。

「8月12日の通勤時は浴衣かアロハシャツなど、夏祭りを楽しめる姿で出勤するように!」

 回覧されてきた業務連絡メールを見て目が点になり、教頭先生へ確認の電話をしたら、思いっきり笑われてしまったよ。


 というわけで、浴衣は実家に預けているので、甚平を羽織って通勤することにしたよ。

 まぁ、ラフ過ぎるスタイルなので、怒られるかとも思っていたけど、殊の外評判が良く…かえって恐縮するハメになったよ。

 はは、君が大笑いしている顔が見えるよ。


 そうだねぇ、一緒に夏祭りに行く機会は僅かだったけれど、君の浴衣姿は今でも鮮明に覚えているよ。

 うん、その姿は月下美人のように白く、とても甘い匂いを湛えた雰囲気は、僕の心を癒やす清涼剤だったよ。


 えっ?教え子達の浴衣姿はどうだったか?…ですか。

 う~ん、あんまり気にしてなかったなぁ。

 可愛いのは、可愛いと思うんだけど…君ほどのトキメキは感じないかなぁ。

 でも…そうだねぇ、みんな個性的で華やかな浴衣を纏っていたね。

 さながら、夜空に咲き乱れる花火のようだったね。


 まぁ気苦労は耐えなかったけれど、良いお盆を迎えられたよ。


 今しばらくは暑い日々が続くから、熱中症に注意するとしよう。


 それじゃ。


 愛しい君へ

 変わらぬ想いと共に

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